南海電鉄和歌山市駅の複合施設「キーノ和歌山」のイメージキャラクター「キノまる」(イラスト)の作者が、有田市の現代美術家、伊藤彩さん(33)です。村上隆や奈良美智ら人気美術家を世に広めた小山登美夫ギャラリーで個展が開かれるなど、国内外で評価される伊藤さんにアートに込める思いを聞きました。

 

親しみ大事に

──「キノまる」はどうやって生まれましたか?

 「和歌山にゆかりのある作家ということで私を選んでいただき、昨年の夏から50種類ぐらい案を考えました。お母さんの買い物についてきて、いつの間にかキーノに住みついてしまった3〜5歳の子どもをイメージしています。かぶっている帽子の形は和歌山の〝山〟なんですよ。親しみを覚えてもらえることを大事につくりました。これからポスターや着ぐるみで目にする機会があると思うので、仲良くしてほしいです」

──キャラクター制作の難しさは?

 「普段は自分の描きたいものを描きますが、キャラクター作りは別で、制作スイッチの切り替えが難しかったです。実家が有田市の伊藤農園で、そのキャラクターは私が作りましたが、今回はそれ以来。自分の作品を幅広い方々に見てもらえるきっかけになるので、今後もチャレンジしていきたいですね」

 

写真を描写する

──絵はいつから?

 「3歳ぐらいからです。中学でデッサンを習い始め、高校卒業後に京都市立芸術大学と大学院で油絵を学びました。学生時代に経験した英国留学で視野が広がったと思います。卒業後は、地元に戻って活動を続けていましたが、29歳で拠点をアイルランドに移し、制作に没頭。2年前に現地で知り合った人と帰郷し、昨年結婚しました」

──和歌山に帰ってきた理由は?

 「やはり安心して制作に取り組める場所だから。アトリエから見える、有田川に沈んでいく夕日がとてもきれいなんです。ここにしかない色で、作品の源です」

──アトリエにある作品は鮮やかな色彩の中に、哀愁漂う人や脱力感のある立体的なモチーフが印象的です。

 「全ての作品は〝フォトドローイング〟と呼んでいる独自の方法で制作しています。いきなりキャンバスに描いていくのではなく、まずアトリエ内に下書き、立体物、家具、布などを配置し、大きなジオラマを作ります。その中に自分が入り込んで、そこから見える風景をカメラに収め、その写真を元に、絵画制作に移っていきます。思いがけない写り込みが面白いんですよ。〝偶然〟に出合うための方法です」

──なぜ写真を見ながら描くのでしょう?

 「頭の中のイメージを描くよりも、写真の中でイメージが再現されているものを見ながら描く方が線や色に迷いがないからです」

──これからは?

 「5月は新宿西口にあるルミネのショーウインドウで新作を発表します。今、世界は新型コロナで大変な時期。ほっこりしてもらえるような作品を作りたいです。長男を出産してから初めての制作なので、作品にどんな変化が生まれるのかワクワクする気持ちも。和歌山から作品を発表し続け、今後は地元の人に見てもらう機会もつくっていきたいですね」

(ニュース和歌山/2020年4月18日更新)