財政と健康が生む矛盾
たばこを吸い続けると確実に健康が害されていきます。しかしその程度は、気付かないほど小さく、30年以上毎日吸い続けてようやく発病するケースが多いのです。これは男性喫煙率が1965年にピークを迎え、30年後の1995年に肺がん死亡率がピークを迎えている事からもわかります。ほかにも胃がん、心筋こうそく、脳卒中などは喫煙者の発症率が非喫煙者より高いことが様々な調査データで明らかになっています。
国立がん研究センターが発表している都道府県別喫煙率データによると、和歌山県の喫煙率は全国平均より少し低いのですが、一方で人口10万人あたりのがん死亡率をみると当県は全国平均より高く、最近の24年間は、ほぼワースト10圏内に低迷しています。がん死亡率が高い状況を踏まえると、喫煙率が平均以下だからといって喫煙による健康被害対策をおろそかにしていてはいけないと思います。
明らかに人々の健康を害し命まで奪うような危険なモノが、どうして販売されているのでしょうか。「肺がんになる可能性があります」と書かれている商品が店頭に並ぶなんてあり得ないはずですが、「喫煙はあなたにとって肺がんの原因の一つとなります」と書いているたばこはコンビニのレジにズラッと100種類以上並んでいます。
実は、たばこには税金が課せられていて、その税収は国や地方自治体の財政予算に組み込まれています。言いかえれば、たばこの売上は私たちの暮らしに使われているのです。この仕組みは、たばこの健康被害が明らかになっていなかった100年以上前の明治時代に確立され、今もなお続いています。現在は「たばこ事業法」という法律でたばこの製造販売を国が管理しています。日本たばこ産業(JT)は民営企業ですが、筆頭株主は財務大臣なのですから、国民の健康や命を犠牲にして財政予算を確保している状況だと言えるでしょう。
4月1日に施行された「改正健康増進法」が原則屋内禁煙をうたい国民の健康を守ろうとしていますが、一方で財政予算のためにたばこを販売しようとする「たばこ事業法」がある矛盾した状態になっています。これには「喫煙者はたばこをやめられない」という事情が影響しています。これがどういうことかは次回に続きます。
(ニュース和歌山/2020年5月16日更新)