昼は紀の川市で無農薬菜園「五風縁」を営み、夜は15㌢のピンヒールをはき、奇抜な衣装に身を包んだドラァグクイーン「ルルデイジー」として舞台に立つ。そんな2つの顔を持つのが石郷岡(いしごうおか)大助さん(43)です。「農家もドラァグクイーンも自分で作り上げ、育てていくことは同じです」と笑顔がはじけています。
逆境を逆手に
──ドラァグクイーンとは?
「奇抜なメークや装いで舞台に立ち、パフォーマンスする男性のことです。舞台で歌声入りの音楽をかけながらリップシンク(口パク)とダンスを披露するゲイカルチャーの一つです」
──きっかけは?
「初めは家の中で化粧をして遊んでいるだけだったのですが、勇気を出して客としてクラブに出かけるように。最近は理解が進んできましたが、自分が少数派であるが故、昼間感じた差別や抑圧されていた気持ちを夜に解放するため、自分を表現する場所が必要でした。徐々に興味をもってくれる人が出てきて、イベント出演や司会などの仕事につながりました。ドラァグクイーンでタレントのナジャ・グランディーバと19歳のころから一緒に舞台に立ち、活躍の場を広げてきました」
──舞台に立つ理由は?
「逆境を逆手に、自分に向けられる差別を受け入れ、あえて派手な格好で舞台にのぞむ姿がだれかの心に届けばいいとの気持ちでいます。実際、見てくれた人から『勇気をもらえた』『一歩踏み出せた』と言われると、やりがいを感じますね。月に2回、大阪梅田のドゥー・ウィズ・カフェに出演しています」
──どんな表現を?
「身長が180㌢で、15㌢のピンヒールをはきパフォーマンスします。衣装のデザインや製作はすべて自分で行います。また衣装作家として、ほかのドラァグクイーンのドレスも手掛け、昨年末にはファッションショーを行いました」
こだわりは無農薬
──ところで、出身は?
「愛知県です。学校を出てからは大阪や東京を行き来していました。衣装や生地が増え、都会のマンションでは保管が難しくなり、広い作業場を求め物件を探す中で出合ったのが紀の川市の空き家バンクでした。家主さんや市の職員さんは温かく、静かな環境や大阪へのアクセスも良かったので、2017年7月に移住してきました」
──なぜ農業を?
「家主さんが『畑を使っていいよ』と言ってくれたのが始まりでした。お客さんの前に立つ仕事なので、健康的かつきれいでいる事が必要です。野菜を作る楽しさに目覚め、販売したいと思うように。専門的な知識を得るために県農林大学校で学び、昨年春に紀の川市で『五風縁』をスタートさせました」
──こだわりは?
「農薬や化成肥料に頼らない自然栽培です。常時20種類以上、品種改良されていない野菜をメーンに育てています。丸ズッキーニやスイスチャードなど珍しい野菜は、大阪の産直市場や自分が主催するマルシェで好評を得ています」
──今後は?
「求められる限り舞台に立ち続けたいですが、今は農家7で舞台は3です。自然栽培もドラァグクイーンも心ひかれるのは少数派。なかなか思い通りにいかないけれど、それも含めて楽しんでいきたいですね」
(ニュース和歌山/2020年7月18日更新)