家にあれば 笥(け)に盛る飯(いい)を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る 有間皇子

 秋の野山を歩く楽しみの一つと言えば、色んな種類のどんぐりと出合えること。一番大きくて丸いのはクヌギやアベマキ、小さいのはアラカシやシラカシ、中ぐらいの大きさで細長いのはコナラやウバメガシなどです。また、公園などにはロケットのような形をしたマテバシイもたくさん落ちています。

 様々などんぐりを紹介しましたが、その中でもシイの実だけは他と形が違い、黒っぽくて先がとがっているのが特徴です。断面が丸い三角形で、他のどんぐりのように帽子をかぶっていません。その代わり全体が皮で包まれていて、秋になるとそれが3つに裂けて、中から黒い実が顔を出します。表面は黒いですが、かじってみると中身は真っ白です。口の中でかんでいると、だんだん甘くなってきます。フライパンなどでいって食べるとさらに香ばしくておいしいですよ。

 シイの木には丸くて小さな実のツブラジイ(コジイ)と、細長くて大きな実のスダジイがあります。公園などに植えられているのはスダジイが多く、紀伊風土記の丘に生えているのはツブラジイで、どれも大きく立派な木です。

 万葉集には有間皇子の詠んだこんな歌があります。

 「家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る」

 家に居るのなら食器でご飯を食べるが、旅の途中なので椎の葉に盛って食べなければならない…との意味です。皇子がとらわれの身となり、裁きを受けるため紀伊の国に連れてこられた話は有名ですが、この歌はその道中に詠んだものと言われています。 (県立紀伊風土記の丘、松下太)

スダジイ(写真上)とツブラジイ(同下)。殻が黄褐色になると、中から黒い実が出てくる

(ニュース和歌山/2020年10月17日更新)