10年前に東京から和歌山へ移住し、新規就農した西野仁(まさし)さん(47)が、熱帯地域で栽培されるバナナを紀の川市の新たな特産フルーツにしようと挑戦している。温暖な気候を生かし露地栽培する試みで、3年目の今年、初めて実をつけ、今月、収穫を行う。国産バナナの生産量は全国的に少なく、「フルーツの町、紀の川市に新しい仲間を加えられたら」と声を弾ませている。

 

西野仁さんが露地栽培挑戦〜今年初収穫 特産品化目指す

 技術職の国家公務員として、港湾の設計をしていた西野さん。滑走路整備のため2005年から1年半、関西国際空港へ出向した時、24時間運用可能な点を生かした深夜の国際貨物便を強化していると知った。「夕方持ち込み、深夜便で輸送すれば、アジア圏なら翌日にはスーパーに届く。農産物を輸出する時代が10年後に来ると感じた。公務員を続けるより、輸出を想定した農業にかけてみようと思いました」

 11年に37歳で退職し、関空まで車で30分の紀の川市で就農した。実家は淡路島の農家だが、西野さん自身は全くの素人。同市の観音山フルーツガーデンが開く農業塾で基礎を学び、地元農家に借りた農地約4000平方㍍で、ジャンボレモンやカシューナッツ、ロメインレタスなど日本で手に入りにくい農作物の栽培を始めた。農薬を使わず、効率的な農法を編み出そうと奮闘する。

 そんな中、岡山の農家が独自の技術でバナナの生産に成功したと耳にした。熱帯や亜熱帯地域で栽培され、国産品は少ない。贈答用は1本1000円以上のものもあり、新潟や熊本などで特産品化の試みが進んでいる。

 「紀の川市をバナナの産地に」と夢を抱いた西野さんは、ハウスではなく、コストのかからない露地栽培を選び、寒さに強い品種、アイスクリームバナナに行き着いた。「調理用だが、熟すとバニラ風味でアイスのような口どけ。早く生産技術を確立した人が勝つなら、今挑戦しなければ」

 18年に苗木6株を入手。しかし根付かず、4株が枯れた。昨年も6株買い、1年目の反省を踏まえて水やりを徹底。今年9月、最初に植えた1株が高さ4㍍ほどに成長し、房状の果実が成った。

 現在は10㌢ほどに成長した約50本が熟すのを待つ。初収穫したバナナは11月下旬にめっけもん広場で展示した後、配布する予定。山田秀樹店長は「趣味でハウス栽培する人はいても、出荷を目指す人はいなかった。今後、紀の川バナナとして多くの人に食べてもらえるようになるのが楽しみ」。また、同市農林振興課は「農家の収入が上がるような特徴ある取り組み。温暖で多種多様な農産物が採れる紀の川市は農業に適した町だが、バナナの出荷はなかった。市の知名度向上につながる」と期待を寄せる。

 今年は実をつける時期が遅く、小ぶりで本数が少なかったため、「肥料や冬越し対策、収穫の時期など研究が必要」と西野さん。来年も6株植え、今後は株分けで増やし、一般販売を目指す。「将来的には一緒に生産する人を募り、無償で株分けします。ゆくゆくはふるさと納税の返礼品として使われるような地元の特産品に」と描いている。

写真=「甘くする方法を研究し、来年以降の出荷を目指します」と西野さん

(ニュース和歌山/2020年11月14日更新)