最新研究成果 刊行相次ぐ
和歌山の歴史、文化を網羅的に捉えた書籍の刊行が12月に相次いだ。和歌山地方史研究会編『地方史研究の最前線〜紀州・和歌山』(清文堂)と県民俗芸能保存協会『和歌山県の祭りと民俗』(東方出版)。いずれも最新の研究、調査の成果を盛り込み、一般にも親しめる内容になっている。
和歌山地方史研究会は昨年創立40周年の記念出版。研究者から一般まで約200人が所属し、会誌発行と研究発表会を定期的に実施する。
40周年を機に、地域の衰退が進む中、新しい価値の自覚を促す「地方史」の必要性を改めて掲げ、出版を企画。和歌山の歴史を古代、中世、近世、近現代と区分し、52人が地元の歴史を考えるうえで重要な歴史的事象、論点について分かりやすく執筆した。
内容は幅広い。中世では、根来、湯浅党、熊野水軍と地域の有力勢力を細かく取り上げたほか、近世は、紀州徳川家に加え、碑文や発掘を通じて分かる災害の歴史を掲載。近現代でも、建築や景観、公害など現在へつらなる題材を扱った。
事務局長の佐藤顕さんは「文献中心の歴史学と考古学など分野を超えた連携で研究が進んでいるのが和歌山の特徴。興味のある所から読んでもらえたら、他へと広がる。和歌山の歴史を学びたい人の入り口になります」と期待している。
四六判、259㌻。1980円。清文堂(06・6211・6265)。
一方、『和歌山県の祭りと民俗』は県民俗芸能保存協会が編集した。県指定無形民俗文化財を守る68団体からなる同協会は2015年、「和歌山の祭りを総合的に伝える本をつくろう」と調査、執筆を開始した。
4人の研究者が国や県指定の民俗文化財を中心に紹介する。那智の火祭りなど熊野三山の祭礼や行事はじめ、高野山の正月やお盆の行事。また、中世の痕跡を残す色川大野(那智勝浦町)の万歳楽、江戸時代から伝わる岩倉流泳法も取り上げている。
オールカラーの写真183点をそえ、行事の一覧やアクセスなどガイドとしても便利なのが特徴。事務局の県文化遺産課、藤森寛志さんは「地域では祭りの後継者難に加え、昨年はコロナで祭りが開かれず、現状は厳しい。和歌山の祭り、民俗を俯瞰(ふかん)した総説であると同時に、現在の祭りの記録として読んでもらえると思う」と勧めている。
A5判、196㌻。2420円。東方出版(06・6779・9571)。
(ニュース和歌山/2021年1月23日更新)