和歌山市に住む会社員の女性(30)は昨年からもう1年以上、交際中の男性(29)に会えていません。男性はインドネシアの人で、スマトラ島に住んでいます。

 仕事で出会った2人は国際遠距離恋愛で、長期休暇に互いを訪れ合っていました。しかし、コロナ禍による入国制限で、昨年1月、「次はゴールデンウィークに会おう」と約束したきり今に至ります。

 結婚への具体的な手順を踏んでいく矢先でした。今はラインで連絡を取り、週に一度話します。時差は2時間と話はしやすいですが、先が見えない中、「話すことがなくなることもありますね」。それでもイスラムのラマダンの際は、一緒に断食し、同じ時を過ごし心を寄せています。

 「つらい思いをしている国際カップルは世界にたくさんいます。女性の場合、子どもをもうける残された時間を考えてしまいます」

 ツイッターの「#愛は観光ではない」には同じ苦境に直面する人の声が連なります。女性も約150人とつながりました。当初は自分の立場を声にすると、「わがまま」「恋愛は自己責任」との声が飛んできそうで、ためらいました。実際、知人が新聞社の取材を受け記事になり、心ない書き込みがなされたそうです。

 バイデン大統領は今春、米国の独立記念日7月4日にコロナからの独立を目指すと掲げ、「一丸となれば、家族や友人と集まり祝える」と国民に語りかけました。ヨーロッパには条件付きで交際中の外国人の入国を認める国も出ています。女性は法務省や外務省に手紙を書きました。「愛する人との再会は五輪やビジネスより優先されていい。パートナーが外国人というだけで不利益があってはいけない」。入国を望む人たちは、入国時にPCR検査を2回行い、陰性でも隔離を受け、日本の水際対策に従う考えを抱いているとも示しました。しかし、反応はありません。

 「別れてしまう人が出てきているのが胸が痛いです。私たちの現状が議論されていると分かるだけでいい。だれの目にもとまっていない感じが苦しい」。女性の訴えは謙虚です。今後に向け、政府から「耐えろ」以外の何のメッセージもない。それが不安です。

 閉じこもる高齢者、飲食店主、失業し自殺を考える女性、先行きが見えない経営者、就職活動のままならぬ学生、多くの人がメッセージのなさに心迷い疲れています。社会の影になる立場であるほど不安はなおさらでしょう。

 「バリ島が8月に外国人を受け入れる噂があり、それがかすかな希望」と女性は話す一方、「道は長いようにも感じます」と楽観しません。

 みんな困っているのだから我慢しろと「困っている人」を「困った人」にしてしまうのは最悪です。互いに響き合える形で、苦境を和らげられたら、コロナの後に災い以外のものを残せるのではないでしょうか。(髙垣善信・ニュース和歌山主筆)

(ニュース和歌山/2021年5月1日更新)