いったいだれがいつ始めたのか…、謎多き「冷水浦駅ノート」をご存じでしょうか。場所は小さな無人駅、JR冷水浦駅。和歌山方面行きホームのベンチ横にあります。
駅ノートとは、駅を訪れた人たちがメッセージやイラストを残すことができる雑記帳のこと。無人駅を中心に、各地で置かれているそうです。私が好きな全国のゲストハウスにも、宿泊者が思い思いの感想をつづるゲストノートがあるため、親近感がぐっと湧きます。
この駅は和歌山駅から南へ15分ほどの場所にあります。紀伊半島の海沿いをU字に走るきのくに線上にあり、散策がてら途中下車した人々の足跡が残されています。センチメンタルな気分のちょっとした逃避行にぴったりなのか、「まだ卒業したくない」「失恋した」など青春香る書き込みはほほ笑ましいものです。中には「学校に遅刻したので冷水浦に来た」と、寝坊して登校ではなく、小さな旅を選ぶ小説的な展開も。
現在ノートは3冊目に突入し、最新の表紙には「ノートがなかったので、私の余っていたノートを入れておきます」の文字。思いのバトンをつないだ人の厚意が伺えます。
停車本数は約30分に1本。待ち時間が長いためか、ち密な芸術的作品が少なくありません。中にはペンを持参したとしか思えないカラフルなものもあります。裏表紙には、使用上の案内として、「できるだけコンパクトに」と記載されていますが、その案内から思わず外れてしまうほど伸びやかに、一人ひとりの自由さがノート上で共存している様子を愛おしく感じます。
ページをめくっていくと、駅名から海のある景色を連想して下車したものの、ビュースポットを探し出せず帰路に着いた人がちらほらいることに気付きます。両ホームに海までのおすすめルートを表示しておくといいかもしれません。謎多き「冷水浦駅ノート」のおかげで、この駅の楽しみ方が広がります。
フリー編集者 前田有佳利(第3土曜担当)
(ニュース和歌山/2021年5月15日更新)