都市部から移住し、地域の課題に取り組む「地域おこし協力隊」。制度発足から12年が経ち、情報や知識を共有するネットワークが全国で生まれている。県内でも、紀美野町を中心に隊員と地域住民が交流する場や、紀南の隊員らが手を結び和歌山をPRするグループが誕生。7月には和歌山大学主催でオンラインセミナーが開かれ、市町村や活動の枠組みを超えた、新たな輪が広がりつつある。

市町村の枠超えネットワーク〜任期後、定住促進に期待

 地域おこし協力隊は、過疎地域の活性化や人材確保を目的に2009年、総務省が立ち上げた。全国の市町村に移住した隊員は、最長3年の任期中、観光や鳥獣害、空き家など各地域の課題解決に携わりながら、定住を目指す。初年度は全国に89人だったが、20年度は5556人と増加した。

 一方、県内は今年6月現在40人で、OBを含めても100人弱だ。県移住定住推進課は「協力隊が各地で活動し、過疎地の担い手としてそのまま留まってくれれば、県全体の活力になる。定住は6割と全国平均よりやや高いが、もっとフォローが必要」と話す。

 こうした中、隊員自ら市町村の枠組みを超えてつながり、地域を盛り上げる動きが出ている。紀美野町では18年から月1回、隊員と地域住民が交流。高校魅力化を課題に17〜19年、隊員として働いた増山雄大さんが、様々な立場の人が本音で話せる関係をつくりたいと始めた。

 その後、海南市や紀の川市の隊員、移住者、自治体担当者も加わり、40人のネットワークが築かれ、紀美野町では地元と協力し自然体験を通じた町おこしイベントを実施した。「同じ協力隊でも地域によって活動内容が違うし、一つの地域にいると近隣の情報が届きにくい。他の隊員から話を聞くだけでも刺激になる」と増山さん。

 紀中や紀南では「わかやまTOK.net」が18年に誕生。中心になるのは、今年3月まで由良町の隊員だった橋本美奈さんだ。みかんの収穫や漁をし、産業や観光を宣伝したが、そもそもの知名度が足りないと感じた。美浜町や古座川町などの隊員とグループをつくり、19年、20年の地域おこし協力隊全国サミットでPRした。

 那智勝浦町の米で作っためん、獣害対策で狩った鹿の頭など活動の成果を展示し、注目を集めた。橋本さんは「つながりの中で悩みや思いを共有する関係が生まれ、定住を決めた隊員もいます。県内外の隊員と連携し、新型コロナが落ち着いたら各地の隊員を中心にフェアをする計画も考えています」と目を輝かせる。

 隊員同士の交流を後押ししようと、和歌山大学食農総合研究教育センターと県移住定住推進課は7月29日、オンラインセミナーを初開催した。12市町村から現役14人、OB9人、関係者18人が参加。橋本市で観光をメーンに活動する上林直人さんは「行政とどう折り合いをつけて動くか、悩みを相談する場がなかった。協力隊が連携し、協力し合うことで孤立感がなくなれば」と吐露する。

 主催した同センターの藤田武弘教授は「他県ではOBがNPOをつくり、関係者へ教育・研修を行う例がある。県内でもネットワークが発展すれば、地域活性化の推進力になるだろう。隊員の動きを生かせるよう、自治体や地元の理解へつなげたい」と望んでいる。

写真=紀美野町と海南市の隊員、移住者、地域住民が交流

(ニュース和歌山/2021年8月14日更新)