あしひきの 山さな葛(かずら) もみつまで 妹(いも)に逢はずや 我(あ)が恋ひ居(を)らむ 作者未詳
秋になると木々は葉を落とし、野山は少し見通しが良くなったように感じます。そこで目立ってくるのが木の実です。その中でも赤い実が一際目を引きます。サネカズラもその一つで、他の木や金網のフェンスなどに巻き付くつる植物です。
夏の暑いころに薄黄色の花を下向きに咲かせ、秋には面白い形の実を付けます。写真のように5㍉ほどの丸い実がいっぱい固まって、ピンポン球ほどの一つの丸い実になるのです。なかなかインパクトがあるでしょ? この丸い実が落ちてしまうと、台になっている部分だけが残ります。その台部分は多面体で、興味深い造形美です。
サネカズラは別名をビナンカズラといいます。ビナンとは「美男」のことで、昔、この植物から採れる粘液を男性の整髪料として利用していたので、この名前が付いています。茎を切ってみると、確かに白い液が出て、手がべとべとします。
万葉集にはこんな歌があります。
あしひきの 山さな葛 もみつまで 妹に逢はずや 我が恋ひ居らむ(作者未詳)
山のサネカズラの実が赤く色づくまで、大好きなあの人に逢えないのだろうか、それまで私はずっと恋しく思っていることだろう──という意味です。
この歌のように、つるが下の方で分かれて、先の方で再び絡み合う様子から、人と人、特に男女が、色々な事があっても後に出会うことができるとの例えにこの植物はよく使われています。(県立紀伊風土記の丘職員、松下太)
写真=晩秋から冬にかけ、雑木林のヘリで赤い実が目を引く
(ニュース和歌山/2021年10月16日更新)