新型コロナウイルスの第6波に向け、心配する声が出ていますが、長引く影響により、旅客運送業は厳しい状況となっています。利用者減少による赤字で債務超過となっている地元の和歌山電鐵貴志川線も状況は変わらず、ひっ迫しています。

 同線は2003年、南海電鉄が廃線を表明。これを機に地域住民が立ち上がりました。有志団体「貴志川線の未来を〝つくる〟会」は、05年には6000人を超す住民運動となり、行政による後継会社の公募につなげました。

 そして、市民団体から公募参加依頼を受けた岡山電気軌道が引き継ぐことになり、06年4月に和歌山電鐵として再出発しました。当初の10年間は、県、和歌山市、紀の川市が運営費を補てんしましたが、16年からは安全性や乗客の利便性向上にかかわる設備費用のみとなり、運行費や修繕費は和歌山電鐵の負担となりました。

 初年度は赤字を免れましたが、次年度からの台風被害や新型コロナによる乗客減で、今年3月末までの累積赤字が2億円近くになっています。和歌山電鐵では、19年8月に「キシカイセイプロジェクト」を発表し、「たまミュージアム号」へ改装するためにクラウドファンディングを実施。現在は副駅名称の命名権が得られるサポーター企業の募集などを行っています。

 今後、地域公共交通は住民福祉の色合いが濃くなり、欧米と同様に「公有民営」になる時がくると考えています。しかし、同会の役員やサポーターは高齢化し、会員数は2000人以下に。沿線の人口減少が更に進み、地域交通は「乗って残そう」では生き残れなくなりつつあります。

 期待するのは企業です。企業は沿線でも全国でも構いません。鉄道のサポーターとなり、住民と親しくなることで、これまでの住民運動がさらに発展し、この広がりが地域経済に対してもいい影響を及ぼすと考えています。

和歌山社会経済研究所研究委員 中西 望(第4土曜担当)

(ニュース和歌山/2021年10月23日更新)