軽くて丈夫なチタンパイプを加工し、世界に一つのオーダーメードによるロードバイクを製作するのは、和歌山市で工房「クオリスサイクルズ」を営む西川喜行さん(49)です。アメリカ仕込みの技術への信頼は国内外に及び、現在は購入まで1年待ちの人気ぶり。「設計から仕上げまでできるのが強みです。乗る人をイメージするとアイデアがわいてきます」とほほ笑みます。
転機は30歳
──なぜ自転車を?
「向陽高校卒業後、東京の大学へ進み、住宅の設計士になりました。友人と事務所を開いたものの、将来に迷いや不安を持っていたある時、書類を届けるメッセンジャーが乗っていた自転車のフレームに見ほれ、美しい構造に興味を持ちました。すぐに都内のフレームメーカーへ転職。30歳の時です」
──大きな転向ですね。
「住宅も自転車も、製品のデザインなので大きな違いはありませんが、製作まで自分でできる点に魅力を感じました。扱うのはママチャリとは違い、競輪選手やロードレーサーが乗る軽量のロードバイクやマウンテンバイクです。プロになると選手によってサイズや素材、重さの違うオーダーメードが基本。パイプや部品の形、厚みなど構造が複雑で、高い溶接技術が必要です。世界トップクラスの技術を得るため、35歳で渡米しました」
──アメリカで溶接を?
「チタン自転車で世界的に有名なセブンサイクルズへ入社。パイプ加工から始め、終業後に毎日、工房の片隅で溶接を練習しました。半年後、高い溶接技術を誇る職人、ティム・デラニーに見出され、7年間教わりました。2014年にニュージャージーで工房を構え、手応えを得た16年に地元、和歌山へ戻り、工房を始めました」
海外からも注文
──特徴は?
「アメリカで習得した技術と日本での設計、両方を生かしたオーダーメードのチタンフレームです。日本ではカーボン製が主流で、軽くて耐久性の高いチタンフレームを扱うメーカーもあるものの、数パターンの部品から選んで組み合わせるのが一般的です。僕の場合は、外径の厚みが1㍉単位で異なる既存パイプから、その人の体重や脚質、走り方にあったものを選び、0・05㍉単位で削ります。しなり具合や乗り心地が変わり、バリエーションは豊富です」
──1台どれくらいで?
「設計と製造だけなら4〜6日です。『この人にはこういう設計がいいんじゃないか』とイメージしながらデザインしたものを、自分の手で最後まで気を抜かず仕上げるのが快感です。海外からも注文があります」
──今後は?
「近年、フレームだけでなく、細かな部品もチタンでそろえたいと希望する人が増えているため、チタン製の部品をデザインし、販売しています。これからも人がやらないことを楽しみながら、一人ひとりにぴったりな自転車を作ります」
※詳細は「クオリスサイクルズ」HP。
(ニュース和歌山/2021年11月20日更新)