書体デザインの登竜門として知られる「タイプデザインコンペティション2014」(モリサワ主催)で和文部門の明石賞に、和歌山市の書家、北原美麗さんとグラフィックデザイナーの井口博文さんの筆書体「北原行書」が選ばれた。活字書体フォントのシェア1位を誇るモリサワが製品化にふさわしい作品を選ぶ賞で、北原さんは「和歌山からの発信になりうれしい。手書きの文字の良さを広げたい」と意気込んでいる。
コンペは、2012年に続いて今回が2回目で、一線のデザイナーが腕を競う高レベルのコンペとして知られる。今回は24ヵ国から386点の応募があり、和文の明石賞の対象となった117点から最優秀作として選ばれた。
北原さんは「美麗書院」の代表として指導にあたる一方、展覧会、パフォーマンスなど書を自由に展開。「いつか自分の文字がフォントになり、後世に残れば」との思いを抱いていた。北原さんの弟子でもある井口さんはデザイナーながら書道関連の本の編集経験が豊富で、書に目が利く。「通常の行書体はパソコンでタイプすると違和感が残る」と2人で話すうち、「自分たちで本物の行書体を作ろう」とコンペへ挑んだ。
多くのデザイナーが半年近くかけ字体を作り応募する中、まず北原さんが字を一気に手書き。それを井口さんが縦、横と文として並べた時にバランスが崩れないように余白などを調整し、短時間で課題の200字を仕上げた。北原さんは「この字はこの形と私の中で法則がある。それを教室のお手本のようにそのまま書いた感じです」。井口さんは「北原さんの字の味わいを生かすのを心がけました」。
明石賞は、「字の美しさは審査員全員が一致した」と審査委員長から高い評価を得て受賞した。今後は、製品化へのベースとなる500文字を作り、続いて1年間で8400文字を製作。2年後に「北原行書」として売り出される見通しだ。
手書き文字は、線に太い、細いが生じ、それが美しさを表現するが、フォントは太さを均一化する方向で作られる。その矛盾する要素を越え、1字1字を作る作業が待っている。井口さんは「かつてない挑戦。デジタル化が進んだ時代、手書きの良さをデジタルで生かす指針にしたい」と望む。北原さんは「東京五輪の時にテレビのテロップで使用され、日本の筆文字として多くの方の目に触れれば」と思い描き、「これまでやってきたことのすべてをかけ打ち込みたい」と力が入る。
写真=明石賞受賞を喜ぶ北原さん(右)と井口さん
(ニュース和歌山2015年5月2日号掲載)