子どもが一人でも安心して来ることができる無料または低価格の「こども食堂」。和歌山でも増え、県内で44ヵ所を数えます。このうち和歌山市のおのみなとこども食堂は児童支援のボランティアに取り組んでいた女性が3年前に立ち上げました。
当初から運営に携わる理事の岡定紀さん(48)は2016年、雄湊地区で熊本地震復興支援のバザーを開催し、多くの人が地域でのつながりを求めているのを感じました。独居世帯が増え、大人が子どもとのかかわり方に戸惑う昨今、岡さんは「地域の人が交流し、普段のつながりをつくりたいと考えました」と話します。
多い時で参加者150人に及び、0歳〜95歳と幅広い参加があります。折り紙や切り絵と参加者の特技を生かし、ふれあいの場をつくってきました。しかし、昨春の新型コロナウイルス感染拡大で活動を自粛。定期的な集まりは絶えましたが、培ったつながりがここで生きました。
コロナ休校下、学童保育への弁当の提供、公園見守り活動と、いずれもつながった親や子どもの困り事を受け止め、動いた成果です。
また、窮地にあった飲食店十数店と連携し、テイクアウト弁当を買い取る企画も行いました。子どもは無料、親は購入する設定で、案内を配布しました。店にはちょっとしたお楽しみも準備してもらい、店と子どもとの接点づくりを図りました。10月には、断水した地区の支援を行いました。この時も助けを求める声を受け、水の提供と洗濯機、シャワーの開放などを断水が終わるまで実施し、約100人が利用しました。
「断水の時に支援を受けた人が、一人暮らしの高齢者の力になって支援する側へ回りました。普段のつながりは危機的状況ではセーフティネットになる。本当に困っている人がどこにいるのかもよく見えます」
普通に生きていると孤立するのが現代です。岡さんは「意識的につながりをつくらないと無縁状態に陥る。子どもとふれあえると高齢者も喜んで来てくれる。子どもは地域をつなげる存在です。今後もつながりづくりを続けたい」と言います。
地域での人とのかかわりはわずらわしさばかりが強調されますが、それは物事の一面で、私たちが安心し、幸せにすごす土台であると思い起こす必要があります。
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「掌論」は今回で終了します。また20数年、本紙で担当してきた私のコラムも最後です。まちの中で見過ごされがちな大切なことに目をこらしてきたつもりです。皆様から頂く感想や励ましが何よりの宝でした。いつか別の形で皆様とお目にかかるのを夢見つつ、しばし筆を置きます。本当にありがとうございました。 (髙垣善信・ニュース和歌山主筆)
(ニュース和歌山/2021年12月4日更新)