紀伊風土記の丘資料館から、アップダウンのある坂道をゆっくり歩くこと約15分。前山A地区東側の円墳がひしめく古墳銀座を通り抜けると、ひと際大きな丘のような古墳が見えてきます。この前山A46号墳は、直径約27㍍、高さ約8㍍の円墳で、6世紀中ごろに造られました。

石棚と4本の石梁がある石室

 発掘調査では古墳の石室入口から朝鮮半島産の土器、高坏(たかつき)のふたの破片が出土し、その後、墳丘上からも同じような土器が見つかりました。この高坏のふたには、コンパスで描いた円や、三角の文様が描かれ、形から朝鮮半島南東部の国、新羅(しらぎ)で作られたものと考えられます。さらに興味深いのは、墳丘上で4個の高坏を死者に捧げるまつりが行われた可能性があり、そうした儀礼のルーツも朝鮮半島に由来するという考えがあります。  

 埋葬施設は、長さ8・7㍍ある岩橋型横穴式石室で、墓室である玄室は長さ3・3㍍、天井までの高さが3・2㍍と大きく、奥の壁には石棚が、両壁には4本の石梁(いしはり)が架けられています。石梁の数は県内最大の前方後円墳、天王塚古墳の8本に次ぐ多さ。玄室につながるせん道には、かつて玄室をふさいでいた扉石が横たわっています。この石室に葬られた人は、前山A地区の古墳を築いた集団の中でも力があり、かつ朝鮮半島からやってきた渡来人たちともかかわりの深い人物のようです。  

 石室内部には見学用ライトが付いていて、入口のボタンを押すとボーっと明るく照らされます。そこは、古墳時代人が見た1500年前の光景そのもの。古代の歴史書『古事記』に登場する、イザナギが亡くなったイザナミに会いに行く黄泉国(よみのくに)訪問神話の世界を感じられます。  

 紀伊風土記の丘の散策へお越しの際は、ちょっとそこの「黄泉国」まで、寄り道してみませんか?

(県立紀伊風土記の丘学芸員 萩野谷正宏)

(ニュース和歌山/2022年2月26日更新)