手に取れば 袖さへにほふ 女郎花 此の白露に 散らまく惜しも 作者未詳
オミナエシは秋の七草の一つですが、紀伊風土記の丘では万葉植物園で梅雨明けごろから咲き始めます。県内でもちょっと自然の残る野山に行けば、高さ1㍍を超えるほどに成長し、他の草より突出した自生の株を見ることができます。
そもそも秋の七草は、その昔、山上憶良が「秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」と詠んだことに始まります。そしてその7種類の花について、「萩の花 尾花(おばな) 葛花(くずばな) なでしこの花 女郎花(おみなえし)また藤袴(ふじばかま) 朝貌(あさがお)の花」と詠んでいます。2番目の尾花はススキ、最後の朝貌は、今の朝顔ではなく、キキョウのことです。これらはみな、風土記の丘で見ることができます。
オミナエシは真っ直ぐに伸びた茎が上の方で何本かに分かれ、それぞれの先に黄色く小さな花がたくさん集まって咲きます。
この花を詠んだ歌は万葉集に14首残されています。このうちの一首、作者未詳のこんな歌があります。
「手に取れば 袖さへにほふ 女郎花 此の白露に 散らまく惜しも」
手に取ると、袖までその色に染まってしまうほど美しいオミナエシが、この白露のために散ってしまうのが惜しいなあ──との意味です。ただ花が散ってしまうことが惜しいなというだけなのか、オミナエシや白露をだれかに重ねた、何か深い意味でもあるのでしょうか。(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)
(ニュース和歌山/2022年7月16日更新)