全ての客室から望めるのは、〝日本のアマルフィ〟と呼ばれる雑賀崎の景色。その漁港で水揚げされたばかりの海鮮をふんだんに使った料理目当てに、県外からの宿泊客はもちろん、地元の人も訪れるのが、和歌山市田野の「漁火の宿 シーサイド観潮」です。和食一筋37年の平林秋広料理長(52)に聞きました。
食材の宝庫
──新鮮な魚を使った料理が人気です。
「足赤エビに伊勢エビ、コロダイやイシダイ、メイタガレイなど、港へ戻ってきたばかりの漁船へ自ら出向き、全て目利きして、生けすに入れ、鮮度を保っています」
──今の時期だと?
「なんと言ってもハモですね。和歌山は全国でも上位の漁獲量で、日本で一番質が良いと思っています。大きいものだと体に合わせて骨がしっかりし、皮が硬いのですが、県内で獲れるハモは小ぶりで、湯引きにするのにちょうどいいんです。京都の料亭でもよく使われている食材を水揚げされてすぐに味わっていただけます」
──特に好評なのは?
「先付けで出しているハモのたたき風です。うなぎの白焼きをヒントに考えたもので、開いて骨切りし、お客さんに出す前にサッとあぶり、ネギともみじおろしをのせ、ポン酢をかけます。さっぱりとした口当たりが人気で、『こんな料理初めて』と喜んでいただいています」
──他はどんな食材を?
「肉は熊野牛や紀州和華牛、野菜もできるだけ県産です。会席の最後に出す甘夏のゼリーや温州みかんのプリンなど、かんきつ類も地元のものを使っています。和歌山は食材の宝庫。ほぼ全てあるんじゃないかと思うほどです」
可能性を探る
──料理の世界へはいつから?
「中学を出て、大阪市内の和食料理店で働きながら、辻調理師専門学校で勉強しました。卒業後も同じ店で4年ほど働いた後、京都や大阪の寿司店で腕を磨きました。33歳で独立し、和歌山市古屋に日本料理店を構え、16年間営業。こちらの旅館には4年前に声をかけていただきました」
──仕事をする上で大事にしていることは?
「驚きを提供することですね。といっても、見た目のインパクトや変わった味ではなく、『この魚をこう使ったら面白いな』『こうした方がよりうま味がでるんじゃないか』と和の技法を使いつつ、食材の新たな可能性を追い求める探究心を大事にしています」
──具体的には?
「例えばハモすきの出汁。昆布とイワシ、サバ、2種類のカツオの削り節、しょう油、砂糖、みりんの配合は、しっかりコクがありながらも、淡泊なハモの味わいを引きたてるよう研究を重ねました。おかげでほとんどのお客さんが全部飲んで帰られます。『この料理はここでしか味わえない』『他とはひと味違うメニューを出してくれる』と言ってもらえるのが、料理人として最高の喜びであり、良いプレッシャーにもなります」
──今後は?
「今年、プールサイドを改装し、バーベキューコーナーを設置しました。雑賀崎漁港が見える場所で、プールと一緒に魚介類や紀州和華牛、熊野牛を楽しめます。また、改装中の和食レストランが秋に完成予定で、そこで出す料理を考案中。これまで磨き続けてきた腕を一皿一皿、しっかり表現していきたいですね」
【漁火の宿 シーサイド観潮】
和歌山市田野82
☎073・444・0111
※要予約
(ニュース和歌山/2022年7月23日更新)