次世代成分プロテオグリカン 産学連携 年内供給目指す
高い保水力で肌や関節の機能維持を担い、次世代の美容・健康成分と注目されるプロテオグリカン。大量に廃棄される梅酢を使ってこの成分を抽出する技術を和歌山大学教育学部の山口真範教授が生み出し、県内企業と連携を進めている。年内にも和歌山発として打ち出す見込みで、山口教授は「地元に根ざした新たな産業を構築できれば」と意気込んでいる。
美容と健康
動物の軟骨や皮ふに存在するプロテオグリカンは、コラーゲンやヒアルロン酸に匹敵する成分になる可能性があると関心を集める。皮ふの保水や弾力性維持、再生機能といった特性を生かした化粧品ほか、抗炎症作用やウイルス防疫効果などから医療分野への活用が望まれる。
2008年、地元の和大に着任した山口教授。機材や材料がそろわない実験室で、和歌山ならではのものでの研究を探した。それが、梅干しを作る際に出る大量の梅酢と、廃棄される魚の頭にある軟骨を使う方法だった。「梅酢と魚の骨でプロテオグリカンが取り出せれば、処理に困っている生産者の収入になり、助けになる」と考えた。
翌年、実験を開始し、プロテオグリカンの抽出に成功した。当時、抽出には毒性の強い試薬類が用いられていたが、古来から調味料に利用される梅酢を使えば、より安全に取り出せる。成分を壊さないため、保水力が高いものが多く取れることが分かった。さらに梅の防臭作用で、魚の生臭さが消える効果もある。
資源の再利用
16年に特許を取得し、学会で発表。東京や大阪など全国の企業から引き合いがある中、山口教授は地元にこだわり、声を掛けて回った。「これは和歌山を盛り上げるための技術。美容や健康分野の産業を構築すれば、人離れが激しい和歌山県の若者が目を向けるかもしれない」
生ものを扱うことを渋る企業が多く、なかなか話は進まなかったが、植物由来の原料を製造する和歌山市の富士化学工業が興味を示した。宇治田雄一郎社長は「市場規模は500億円と言われ、今後、再生医療への応用が期待できる。6次産業化は販路開拓が難しいが、これはいろんな業界を巻き込み、活性化の可能性が広がる」と開発チームを立ち上げ、量産体制を整えた。
軟骨を取り出す手作業と梅酢に漬ける工程は、それぞれ原料を調達する県内加工業者に依頼することに。みなべ町の梅干しメーカー、鈴梅の泰地政宏社長は「既存設備が使え、当初心配していた臭いは気にならない。年間100㌧以上出る梅酢の使い道や引き取り先に苦心していたので、美容や健康に役立てられるならうれしい」と期待を寄せる。
一方、企業への販路開拓を請け負う和歌山市の新中村化学工業、中村謙介社長は「和歌山の資源と技術が起点になった産学の地域連携商品。新しい領域を切り開く道筋に」と意欲的だ。
年内を目標に、「和歌山発の梅酢抽出プロテオグリカン」として打ち出す準備を進めている。山口教授は「抽出後の軟骨をペットフードに再々利用すれば、最後まで資源がムダにならず、サステナブル(持続可能)な産業になる」と話している。
(ニュース和歌山/2022年10月8日更新)