高齢化、人口減少に伴う空き家の増加が社会問題になっている。管理せずに放置すると、防災、衛生、景観上、近隣に悪影響を及ぼすことから、危険な空き家の所有者に市町村が修繕、撤去を命令できる「空き家対策特別措置法(特措法)」が5月26日、全面施行された。和歌山県内でも、適切な管理を所有者に促し、空き家問題を解消する取り組みが始まっている。
2013年の総務省調査によると、県内の空き家は8万6000戸で、08年から2300戸増加。全住宅に占める割合は18・1%と全国ワースト3位だ。
特措法では、倒壊の恐れがあるなど危険な空き家を、市町村が特定空き家と認定した上で立ち入り調査し、修繕や除却など適正管理の指導と助言、勧告、命令を行う。命令に従わない場合は50万円以下の過料を課し、行政代執行として最終的に強制撤去できる。また、住宅がある土地の固定資産税は6分の1に免除されているが、特定空き家に認められ勧告を受けると翌年度分から免除がなくなる。
県は全国に先駆けて12年、周囲の景観を損なう廃きょ化した空き家の除却を勧告、命令できる「景観支障防止条例」を施行した。これまで住民から150件の情報があり、勧告に至ったのは紀南地方の1件のみ。県都市政策課は「条例は景観のみの観点だったが、特措法は防犯、衛生など総合的に空き家を判断できる。法施行で実効性を高められる」と期待する。
和歌山市も13年、著しく老朽化した空き家を改善するよう命令できる条例を施行。今年3月末までに240件の通報があり、3件を指導、うち1件に勧告した。特措法施行後は1日5、6件の情報が寄せられる。市建築指導課は「所有者が亡くなり、相続が複雑などで持ち主を特定できないことが多い。個人財産なのでどこまで踏み込めるかが課題。空き家調査と同時に利活用する制度づくりも必要になる」と話す。
こうした中、危険な空き家になるのを未然に防ぐ民間企業が数社出てきている。海南市の不動産会社ホームズは4月、空き家巡回サービスを本格的に始めた。依頼を受けた家を見回り、換気、通水、郵便ポストの整理や外回りの点検を行う。海外出張中の人や入院中の独居高齢者、亡くなった親から実家を相続した県外在住者から問い合わせがある。小切康至専務は「人が住まずに放置されれば老朽化が進む。家を介護するように持ち主の思いに寄り添い、適切に管理しながら賃貸としても生かせる方法を提案したい」と意気込む。
同社は昨年秋、福井県の不動産会社などと地域の空き家問題に取り組む「あかり家プロジェクト」を立ち上げた。空き家に文化的価値を付け、役立てたい人を掘り起こそうとインターネット上で地方の活用事例を発信。その一つとして紹介されている和歌山市のうらら別館は、長年空き家だったが、飲食店を経営する水本亜耶さんが借り、地域の人が料理教室や絵画教室を開く貸しスペースとして再生させた。水本さんは「だれも住まないからとつぶされていく空き家を見る度、寂しくなる。古い建物には、古いなりの良さがある」と語る。
市街地の空き家を研究する和歌山大学システム工学部の小川宏樹准教授は「除去も利活用も行政だけでは限度があり、一番の責任は持ち主にあることをふまえるべき。民間や住民が空き家を資源として前向きにとらえ、まちづくりに生かせれば」と話している。
写真=特定空き家にならないよう、所有者による予防策が望まれる
(ニュース和歌山2015年6月6日号掲載)