1、2月に小学校で出前授業をさせていただく機会を得ました。新聞記者の仕事紹介と、新聞作りの教室で、子どもたちに新聞を身近に感じてもらおうと意気込んで教壇に立ちました。
子どもたちに新聞をとっているか尋ねました。すると、手を挙げたのは半分以下。クラスの3分の2近くが新聞をとっていなかったのです。経済的な理由などそれぞれでしょうが、それでもこの数字は大きいと感じます。インターネットでキーワードを打ち込めば、欲しい情報が手に入る時代、デジタル化の波は子どもたちの身の回りにすき間なく押し寄せています。
一方で新聞を使った教育活動が盛んになっています。県教委は、読み取る力、書く力、要約する力など「ことばの力」の向上を推進し、学習指導要領に登場する「新聞」という単語の数も増えました。行政も新聞の教育的価値を認めているのです。
新聞の良さは、読みたい記事以外の情報に触れられることです。自分で紙面の中から情報を探し、それが必要か判断し、理解する。インターネットでコンピュータが必要だと判断した情報だけを得るのでは、自らの関心を追うに留まり、自分の枠を超えたニュースや情報との出合い、それを読み解く機会が限られてしまいます。
流れてくる情報を受け取る受動的な態度から、紙面を読んで情報を探すという能動的な態度に改めることは、情報を正確に見極め、判断する力につながります。そういった力は情報化社会がさらに進む今後、欠かせない力となるでしょう。
東日本大震災でもアナログメディアが活躍しました。宮城県石巻市を中心に発行する石巻日日新聞は震災直後、電気、ガス、水道などのライフラインが途絶えた中、記者たちが壁新聞を手書きして避難所に掲示し、住民に安心と希望を届けました。
当時報道部長だった武内宏之さんは「全国メディアは主だった被災地や、速報が中心でした。地区単位の細かな情報を伝えたことで、生活者により近い存在として地方紙が見直される機会になりました」と振り返ります。
「速報に追われず真実に迫る地方紙にこそ新聞の原点がある」。武内さんの言葉には、読者にふるさとを認識してもらうという使命感があふれていました。アナログメディアの良さを認識し、紙面の活用を図る。それが地方紙、ひいては地方の未来を拓くのだと思います。 (林)
(ニュース和歌山2016年3月12日号掲載)