「南海和歌山市駅はどう生まれ変わるのか?」をテーマにしたシンポジウムが5月末に開かれました。関係者から興味深い発言が数多く出ましたが、私が心動いたのは市駅前の新しい広場の構想です。
「紀州の玄関口」をコンセプトに紀州材を使い、様々な規模の催しを想定した交流空間となるようです。そのうえで監修する川添善行東京大学准教授は、水かけっこできる水たまりが生まれる「使い方無限」の空間を設けることを明かし、「そこに我々のメッセージがある」と語りました。そして子どもを物心つくころから枠にはめながら最終的に個性を求める現代の教育の矛盾にふれ、「個性を解放でき、それを受容できるのが広場。皆さんが行儀よく使うなら失敗になる」と発言しました。
これはまちづくりに向かう私たちへの投げかけです。多くの人は手軽で快適な娯楽を求める一方、SNSの影響で多少のアクシデントを含んだ物事の展開、また自分自身の参加といったある種ドキュメンタリー的な要素を求める傾向があります。「紀州の玄関口」も慣例や細々とした約束事にこだわり、無難にこなし、「良かったね」ではなく、面白さや感動を軸にハプニングや揺らぎをも許容し、エネルギーを倍増させる創造的な遊び心が発揮され、許容されてこそ魅力的になれる。メッセージを私はそう解釈します。
さて、その広場に続く市駅前通りです。ここで今年度実施される社会実験事業の委託をめぐり、過去3年、地域主導による社会実験「市駅 〝グリーングリーン〟プロジェクト」に力をそそいできた市駅周辺の商店街や自治会、和歌山大学関係者は行政に対する不信感を高めています。地元が形をつくり、実施してきた社会実験を、和歌山市が引き継ぐまでは良かったのですが、その後、地元関係者に相談もなく準備が進みました。
ソフト面の取り組みは人と人との信頼がすべてです。ここは市民の努力が実を結んでいく実感を、行政が一緒に育ててこそ次につながる局面でした。そこに暮らす人の顔をみて、しっかり連携していかないと、頑張った人にほど無力感を与え、今後の市民パワーの根を損ねてしまいます。
どうしたら最大限に街が輝け、人が街への愛を育められるか。型にはまったやり方や発想から一歩出て、交流の場として市駅前を、広場を作れるのか。行政であれ、市民であれ、気持ちが響き合う選択が欠かせません。 (高垣善信主筆)
(ニュース和歌山/2018年6月9日更新)