また痛ましい事件が起きてしまいました。東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(5)が虐待を受けて亡くなった事件。体重は著しく減り、早朝から親に許しを請う文章を一文字ずつ書いた姿を思うと、胸が締め付けられます。
2010年夏に大阪で起きた2児置き去り死事件を思い出しました。3歳の女の子と1歳8ヵ月の男の子が約50日間、粘着テープでドアをふさがれたマンションの1室に閉じ込められ、変わり果てた姿で発見されました。ショッキングな事件に反省し、二度とこのような事件が起こらないよう祈っていましたが、悲劇は再び起きました。
繰り返される悲劇の原因を求め、大阪の事件を取材した杉山春さんの著書『ルポ 虐待』を読みました。2児の母親は当初、子育てに熱心でしたが、離婚を機に次々と出会う男性の歓心を買うため、子どもと向き合えなくなっていきます。実家は頼れず、公的支援も受けません。暮らしていたマンションでは「互いに無関心であることがマナー」(同書)で、母親は「誰も助けてくれないと思っていた」と証言しています。児童相談所も実態をつかめませんでした。
結愛ちゃんの場合、亡くなる3ヵ月前まで、引っ越す前にいた香川県の児相が状況を把握していました。しかし、東京へ移り約2ヵ月後、亡くなりました。結愛ちゃんも社会との接点が断たれていたのです。
児相の機能強化、警察との連携などの対策を求める声が聞こえますが、いずれも事が起きてしまってからの対応です。大切なのは予防で、親子を孤立させない環境をつくることです。行政が強制的に子どもを保護したところで、虐待の原因となる事情にふれない限り、根本的な解決につながりません。
県内の児童虐待相談件数は昨年度、1142件と過去最多を記録しました。和歌山子どもの虐待防止協会は4月、みその商店街に相談窓口「かがやきポルト わこ」を開設しました。同協会の家本めぐみさんは「児相をはじめ行政に対し警戒心やハードルを感じる人がおり、行政と当事者の間に立つ人間が必要」と強調します。
「誰も助けてくれない」。親たちがそう思わなくても良い社会にするためにできることは何か。「こうあるべきだ」と親や児相を追い詰めるのが答えではありません。一人悩み、抱え込んだ親たちを救えるのは、隣にいる私たち大人なのです。 (林)
(ニュース和歌山/2018年6月23日更新)