過去、ソニーのAIBOやトヨタのプリウスなどが大賞に選ばれた日本デザイン振興会主催のグッドデザイン賞。今年、最も優れたデザインに贈られる内閣総理大臣賞に、奈良のNPO法人「おてらおやつクラブ」が進める貧困問題解決に向けたお寺の活動が選出されました。
「活動がデザインの賞?」と最初は感じましたが、聞けばなるほど。お寺で、悩みの種になっていたことを、社会貢献のための仕組みにデザインし直した点が評価されたと分かり、合点がいきました。
おてらおやつクラブは2014年、寺社の運営をサポートする一般社団法人「お寺の未来」が始めた活動で、昨年からNPO法人が引き継いでいます。取り組みは実にユニークです。お寺には〝おそなえ〟が集まります。しかし、お寺の関係者で食べきれない量が寄せられることも少なくない。このおそなえを仏様からの〝おさがり〟とし、経済的に苦しい子どもたちを支援する子ども食堂などの団体へ〝おすそわけ〟するのです。
スタートから4年。その取り組みは全国に広がっています。11月18日現在、登録している寺院は全国に983。おやつを受け取った子どもは10月だけで延べ1万1000人に上ります。
県内で最初に始めたのは、和歌山市本町の善称寺です。15年に参加し、今は2ヵ所に毎月各1回、菓子や果物などを贈ります。「子どもたちのために」と寄せられた文房具も一緒に箱詰めすることもしばしば。釋真宣住職は「最近は法事の際、子どもさんが好きそうな物をおそなえに持って来られる方が増えました。和菓子より洋菓子。クリスマスを控えた今の季節、パーティーに使えるような駄菓子をたくさんくださった方がいましたね」。活動の浸透を感じます。
グッドデザイン賞受賞理由を読むと、「お寺の〝ある〟と社会の〝ない〟を無理なくつなげる優れた取り組み」とあります。お寺にはお盆や彼岸を中心にたくさんあるおそなえ。もったいないとの気持ちも解消される、目から鱗のアイデアです。無理がないから長く続けられます。
おすそわけを受け取る方は、おそなえされた人の顔も名前も分からないでしょう。それでも温かい気持ちはつながるはずです。一人じゃないと実感できれば、孤立を防げます。〝おそなえ、おさがり、おすそわけ〟。この活動が受賞を機に、さらに広がればと願います。 (西山)
(ニュース和歌山/2018年11月24日更新)