温かいお酒が恋しい季節になりました。ずっと気になっていた和歌山の地酒「髙垣」を松尾酒店(和歌山市南材木丁)で買いました。
昨春、松尾酒店と有田川町の髙垣酒造が生みだしたプライベートブランドのお酒で、同酒店のサイトと店舗のみの販売です。髙垣酒造は「龍神丸」で有名ですが、蔵を銘柄にした酒はなく、地酒専門である松尾酒店店主の松尾全起さんが「髙垣の名で、リーズナブルで飲み飽きしない純米酒をつくりたい」と提案しました。人名でもあることから商標の獲得に1年かかりましたが、晴れて販売にこぎ着けけたのです。
「宣伝していないのによう売れるな」。最初はそんな感じでした。ネットで売り出す度に瞬く間に売り切れ、首をかしげていたころ、ある女性の存在が見えてきました。
名前は高垣楓。「アイドルマスターシンデレラガールズ」というアイドルの卵を育てるシミュレーションゲームの人気キャラクターです。この楓さんの設定が和歌山出身、そして日本酒好きの25歳。高垣楓出身地の酒「髙垣」にファンが反応し、噂がSNSを駆け巡っていたのです。ダウンロード500万超の人気ゲームです。当初、年間販売見込み90本だったのが、昨年は500本。年末に完売し、新酒を待ち売り出した今年初めから勢いは止まらず、今も100本単位でネット販売をすると、3分で完売です。楓さんの誕生日6月14日には店に列ができました。
ゲームで楓さんを推す「プロデューサー」が全国から店を訪れ、中には海外の人も。ツイッターで店の情報を発信する長女の悦代さんが応対し、店にはキャラクターを描く半二合さんのサイン、楓さんのフィギュアが並び、小さな聖地と化しています。また髙垣酒造の「喜楽里」は諸星きらり、名手酒造の「明光」は和歌山出身の並木芽衣子と同じゲームのキャラにかけて買う人が増え、ファンの遊び心が地酒の発信につながっています。松尾さんは「ゲームのことなど何も知らない酒屋のオヤジが、思わぬ評判に驚いている。その姿が面白いみたいですね」と笑います。
実は松尾酒店、地酒専門店となったのは2006年。小泉構造改革での酒販免許自由化を受け、生き残りをかけた選択でした。スーパーやコンビニと差別化を図るため焦点を絞ったのが地元和歌山、その選択が高垣楓との運命の出会いを用意したと言えます。
狙わず生まれたヒット商品の強みは真似ができないことです。ただぶれずに故郷にこだわったのは勝因のひとつでしょう。同じ和歌山の髙垣である私もその姿勢にあやかるべく、年末年始はこの酒を飲みたいです。 (高垣善信・ニュース和歌山主筆)
(ニュース和歌山/2018年12月8日更新)