今春の選抜高校野球大会には智辯和歌山、市立和歌山と和歌山県勢が2校出場します。2校出場は5年ぶりで、「野球王国和歌山を印象づけてほしい」と期待の声が上がります。
その野球王国が輩出する選手はさすがに違うと感心しています。橋本市出身、侍ジャパンでも4番を任された横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手です。筒香選手は昨年11月、『空に向かってかっ飛ばせ!』(文藝春秋社)を刊行し、そこで子どもたちが野球にもっと魅力を感じてくれるよう、野球界の古い体質を壊すと宣言したのです。
特に野球に染みついた「勝利至上主義」に一石を投じます。「野球が子どもたちのためでなく、指導者の実績や功績、関係者や親など大人たちの満足のためになりがち」とはっきり言います。
子どもたちが何もはばからず全力でプレーし自らの個性を発見し、自分の頭で考えて試行錯誤してこそ楽しく、力を伸ばせる。それこそ野球で、指導者が選手にあれこれ言って罵倒することも、選手が指導者の顔色を見ながらプレーすることも、はたまた勝つために試合で送りバントをするのもおかしい。「子どもの成長を犠牲にしてまで勝たねばならない試合とは一体どんな試合か」と明快です。具体的には投球数制限、金属バットの規制、一発勝負のトーナメント制の改革、練習時間の見直しを提言し、選手の身体負担の問題を重くみます。
目の覚めるような主張です。例えば高校野球。トーナメント制に一人のエースだよりのチーム編成と選手を追いつめる形になっていながら、どこか「それを乗り越えてこそ」が当然になっていないか。ぎりぎりの対戦形態が生むスリルを背景にした選手の頑張りに私たちは「ドラマ」を見て「感動」していないか。プロに入り故障で苦しむ元スター選手を「悲劇」と物語的にとらえていないか。それがかつての連投のせいなら、犠牲者ではないのか…。読んでいて実に考えさせられました。
野球に限らず、昨今のスポーツ界のトラブルは強い上下関係に起因しています。そこに身を置く筒香選手の発言は相当勇気のいることに思えますが、選手がもっと輝けば、野球はもっと魅力的になるとの確信を感じます。そして、これは野球に留まる話ではありません。個人がめいっぱい力を試し、周囲は失敗を許容し、自分で考えることを促し、それぞれが個性を育てる。私たちはそれを良しとしているか。投げかけは日本の教育風土や組織の問題に届いています。 (髙垣善信主筆)
(ニュース和歌山/2019年3月9日更新)