とある喫茶店で、コーヒーカップの取っ手に小さな稲妻のような柄が走るのを目にした。折れたのを接着し、そこを金属粉で装飾していた▼陶器を修復する伝統工芸の技「金継ぎ」だ。近年見直され、都会では教室もあるとのこと。元の器にない味わいがにじむのが人気らしい▼数年前、この言葉を米国のロックバンドがアルバムタイトルに使っていた。そのバンドは結成当初からの主要メンバーが抜け、危機にひんしていた。そこからの再出発を「再生」や「復活」でなく、「KINTSUGI」と銘打った。亀裂をも美しく、今まであったものをそのままにさらに深く。そんなニュアンスを求めたのだろう▼考えてみると、一時飛び交った「リセット」などという言葉と対極に思う。生きていると、誰もが失敗や別離、困難に直面する。しかし、「金継ぎ」は過去も傷みもそのままに小さく飾り、時を重ねるのを選ぶ。こう生きたいとまで思わせる技だ。使い捨て時代の中、こういう伝統と精神ならぜひ見直したい。 (髙垣)
(ニュース和歌山/2019年7月20日更新)