和歌山市東長町、七曲商店街の一角にはんこ屋さん「みの印章堂」があります。来年創業70年を迎える昔ながらのお店ですが、近年、メッセージ付き似顔絵はんこ「似てルンです!」が話題となり、地元公式キャラクターきいちゃんグッズを手がけるなど従来の事業に留まらない、新たな展開を図っています。
同社常務の淺井隆一さん(39)が熱を入れるのが2016年4月に発生した熊本地震の被災地支援です。淺井さんは震災の翌年、報道で復興が進まず、多くの人が仮設住宅での暮らしを強いられているのを知り、自らできることを探しました。
17年8月、熊本県御船町を訪れ、地域交流イベントに参加します。自社で製作した熊本の人気キャラクター、くまモンのはんこストラップ100個を携え、子どもたちに試し押しを楽しんでもらい、プレゼントしました。
「和歌山から来てくれた!」と手を握り、感謝を伝えてくれる人もいる中、淺井さんが一番心打たれたのは被災地の子どもたちの笑顔と元気です。「落ち込んでいても仕方がない厳しい状況なのに、みんな前を向いて一日一日しっかりと生きている。逆にこちらが勇気付けられました」
昨年も熊本市にある秋津中央公園の仮設団地を訪れて住民とふれ合い、今年は9月8日、同市で開かれたYMCAの地域交流イベントに参加し、子どもたちにしおり作りを楽しんでもらいました。
報道の機会が減った熊本ですが、今年5月現在で1万1千人が仮設で暮らしています。自宅へ帰れる人、帰れない人が分かれ、友だちと離れ離れとなり寂しい思いをしている子どもがいるそうです。
自然災害が多発し、社会貢献の意義は理解しながら、多くの企業は一歩を踏み出せません。しかし、活動には恵みがあると淺井さんは言います。「現地に行くと、自分たちの普段の環境が当たり前のものではなく、時に当たり前に甘えている自分たちに気づきます。地元へ帰り、今一度、できることから見直そうとの気持ちを得られました」
ふれ合いから得られた力は企業を質的に豊かにし、地域にも良い波及を呼ぶでしょう。最初の一歩の大きさを感じます。 (髙垣善信・ニュース和歌山主筆)
写真=子どもたちと話す淺井さん
(ニュース和歌山/2019年10月5日更新)