一生吸わない時代へ

 喫煙者はたばこをやめられない、だからたばこの供給が必要、やめられないから売れ続ける。というわけで、大勢の喫煙者はほぼ一生、たばこを買い続けます。これは政府にとって安定した税収につながる好都合な事情です。

 では、どうしてたばこはやめられなくなるのか。ご存知の方も多いと思いますが、たばこの煙に含まれる〝ニコチン〟のせいなのです。この物質は脳神経に作用して心地良い感覚を与えます。一旦この感覚を覚えた脳は、簡単に心地良くなるニコチンを頼るようになってしまいます。これが「ニコチン依存症」と呼ばれる症状で、体内のニコチンが切れてくるとイライラ感が募り、たばこを吸いたくてたまらなくなるわけです。

 こうしてたばこを吸うと心地良くなり、「たばこは気持ちが落ち着く」とストレス解消になるかのような勘違いをしてしまいます。こうなると、自分の意志とは関係なく生理的にニコチンを要求する脳の働きによって、なかなかやめられない事態となるわけです。ニコチン切れによるイライラは、たばこを吸い始めてしまったがために感じるストレスで、このために買っているようなものです。

 さて、このようなたばこの正体を知っている人はどれほどいるでしょうか。かつての大人たちは、だれからもたばこの正しい知識を教えてもらっていなかったですからね。

 そこで、和歌山では2003年から和歌山市医師会学校医部会が中心となって、おもに小学生向けにたばこの有害性に関する正しい知識を教育する禁煙ボランティアの会が結成され、以来、和歌山市を中心に多くの小学校で喫煙防止の出張授業を続けています。また、及ばずながら私も勤務する和歌山工業高校の生徒全員に毎週、「週刊タバコの正体」と題するプリントを作成し配布しています。2005年4月に開始し、現在まで15年間で600号を発行、6000名を超える卒業生にたばこの有害性を伝えてきました。

 すでに若者の喫煙率は低下してきていますが、今後、こんな教育を受けた子どもたちが成人して、さらにたばこを必要としない大人が増える事でしょう。いつか「一生たばこを吸わない人」ばかりの世に中になることを願っています。

(ニュース和歌山/2020年5月23日更新)