新型コロナウイルスとの戦い

 2020年2月14日、私自身が経営する飲食店「紀州のしずく」(和歌山市十三番丁)に1本の電話が鳴った。「あすの宴会の予約をキャンセルしたい」

 理由は和歌山県内の医師から新型コロナウイルス陽性患者が出たためとのことだった。この宴会は35名の団体貸切予約で、病院関係者による懇親会の予定だった。そして、これが今回のコロナによる自身の経営への影響が出た全ての始まりになった。

 「不要な外出を控える」。そういう風潮がささやかれ出した。そして、その風潮は真っ先に外食産業を襲う。

 飲食店にとって3月、4月の歓送迎会シーズンの売り上げは忘年会シーズンを含め、年間で一番大きい。「その時期までにはなんとか収束してほしい」。そう願うばかりだったが、そこからの展開は目まぐるしく、ひどくなる一方だった。

 止まることのないキャンセル、埋まることのない予約帳の白さにどんどん焦りが募り、3月の売り上げを集計した際には昨年対比で約50%ダウンにもなり、このころから頭の中に「廃業」の2文字が浮かび始めた。そして、トドメとなったのが「全国緊急事態宣言」。

 国や行政は「不要不急の外出を控えるように」というメッセージを強く発信するが、宣言を出し始めたころはまだ補償の内容は曖昧だった。 

 私たち飲食店経営者は出店する際、その周辺の商圏を必ず確認する。その周りにはどれほどの住人がいて、近くに働く人がいて、どんな人たちが行き来する場所か。道路が通っていて駐車場があり、夜は街灯があるか。そんな条件を踏まえて家賃が妥当かどうかを判断し、そして覚悟を持って契約し、出店する。

 「不要不急の外出を控える」という言葉は、その条件全てを根本から覆す事になる。覆したのは新型ウイルスなのか、行政なのか。少なくとも国や行政は、補償の道筋を先に示しておけばもう少し違った結果になっていたと思う。

(ニュース和歌山/2020年6月13日更新)