表現する場所を守るために
録音、録画のメディアは多様な変化を遂げてきました。昔はライブのみでしたが、レコード、カセット、ビデオテープ、CD、DVD、現在の主流はデジタルデータやストリーミング配信へと移り変わっています。
技術の進歩は、確実に音楽の可能性と選択肢を広げています。私はアナログレコードが好きなので、物として完全になくなるとは思っていませんが、音源の売上は全体的に減少傾向にあります。昨今、音源は補助的な媒体になり、ライブやフェスチケットの販売が主流となりました。
ただ、新型コロナウイルス感染症のまん延で、ライブ体験の販売が難しくなりました。人数制限、ソーシャルディスタンスの確保、検温やマスク着用の徹底と、安全に配慮して開催するのは当然です。極論、アーティストがいて場所があれば、ライブはどこでもできます。個人的に今は、室内から野外に目を向け、環境に配慮したクリーンエネルギーで電気を賄う野外の移動式イベントやオンライン配信への移行を検討中です。
危惧しているのは、表現する場所の存続です。優れた演者が生まれ、世に出ていくためには、ミニシアターや小劇場、ライブハウスといった自由な表現の場が重要な役割を担ってきました。
ライブの魅力は体全体で感じる生の音や臨場感です。観客席とステージとの距離は近く、手が届くほどの場所にいる表現者の熱気や汗、緊張感…。これらは画面を通して見ているだけでは得られない感覚です。
国内外のプロから地元のアマチュアまで、多くの表現者に門戸を開き、ジャンルや世代や国境を超え、ファンに愛されてきた場所には魂が宿っています。文化を支えてきた聖地は後世に残していかなければなりません。
それぞれの会場に地域の人との交流やストーリーがあり、そこに表現がある。行政と連帯を図り、ガイドラインや収益モデルの策定など新たな仕組みづくりが必要です。
エンターテインメントは人を楽しませる娯楽です。AIやロボットだけではできない、人の仕事として今後も生き残るはずです。そのために個性を出して存続する方法を模索しないといけません。
(ニュース和歌山/2020年8月22日更新)