和歌山市の池田泰之さん(53)が同市広瀬でペットフード店「フッセジャパン和歌山」を始めたのは、一匹の猫との出会いがきっかけです。

十数年前、池田さんは大きな喪失感を抱えていました。大阪での起業に疲れを感じていた最中、交通事故で母が急死したのです。父の落ち込みもひどく、やむを得ず帰郷しましたが、池田さんも心の嘆きがぬぐえずにいました。

 ある日、ふらりと白い猫が自宅前にやってきました。妻の静さん(51)とかわいがり始め、ある時、お腹に出血があり、病院へ連れて行きました。

 その際、白血病ウイルスに感染しているのが分かり、余命は1〜2年と告げられました。池田さんは支える決意をし、コタミちゃんと名付けて家族として迎え入れました。

 コタミちゃんは何かを察するようななつき方をしました。例えば、夫婦間で言葉がとげとげしくなると、するすると2人の間に入ってきます。自然と顔はほころび、途端に平和な一時に転じます。

 池田さんは、コタミちゃんのため、食べ物や体調管理の知識を身につけました。他の猫も保護するうち20匹を超え、猫専用の小さな家を設けました。それを知ったペットフードメーカー、フッセがフードを寄付してくれ、その縁が開業へつながります。

 コタミちゃんは残念ながら7年で亡くなりました。池田さんは自らの腕の中で見送れたのが何よりでした。「最期まで看取らせてくれ、感謝がありました。人生を変えてくれました」と振り返ります。
 店を構えて5年。販売だけでなく、愛玩動物飼養管理士として飼い主の悩み相談に乗ります。ペットたちへの恩返しとの思いが常にあります。

 先に多くの人の動物愛護の心が軽んじられる問題が和歌山市でありました。動物愛護について池田さんは「愛護は自分の心にあるもの」と語ります。「迷い込んできた虫を逃がし、草花を踏むのを避けるのも愛護です。私は猫を通じ、他の動物や弱い存在を心に留めるようになり、思いやりを学びました。今、環境面で人間は自分の首を絞めています。人間至上主義の社会を見直すようにもなりました」

 愛護をこうとらえれば、本来、支え合っている私たちの姿まで見えてきます。動物と共に歩むことは私たちをより思いやり深く、より心豊かにしてくれます。ペットの愛好家だけのものではなく、動物愛護を自分たちのこととして広く考える必要がありそうです。 (髙垣善信・本紙主筆)

写真=ペット相談に乗る池田さん

(ニュース和歌山/2020年11月7日更新)