ぷううんと耳元に蚊の羽音が迫る季節になった。これが小さい時から嫌いで、今でも羽音に襲われると、あわてて手で払い、電気蚊取りのスイッチを入れ、羽音の主を叩こうと探す▼最近は、ひと吹きで効果が1ヵ月続く防虫スプレーやら、予め部屋に吹き付けると、液体が壁に付着し、とまった蚊を撃退する新手の製品があるそう。一度は試してみたい▼しかし、本心は蚊取り線香をたきたい。部屋に煙が充満するのと、火が危険との理由で、家族から評判が悪く、今は屋外でのみ使う▼冷房もなく、縁側をよく開けていたころは、やわらかい夜風とともに線香の煙が舞うのをぼんやりと眺めた。幼心にそこに夏を感じていた▼昔、若い建築士が「好きなのは蚊取り線香が似合う古い家」と話していた。蚊取り線香には、蚊を殺すより、遠ざけるような蚊とのつきあいの妙味を感じる。そんな自然との間合いみたいなものが日本人の暮らしから消えつつある。人の心に映る風景も季節も変わっていくのだろう。 (髙垣)

(ニュース和歌山2015年6月27日号掲載)