「ク・セ・ジュ」という有名な文言がある。フランス語で「わたしが何を知っていようか」との意味で、今から400年以上前に亡くなった思想家モンテーニュの著書『エセー』の中にある▼秋になると手を伸ばす。9月13日が彼の命日で、私自身の誕生日と重なっているという他愛ない理由からだ。今年で30歳。15歳から半生、読み続けている▼『エセー』は「試すこと、測ること」を意味する。時流にとらわれない自在な思索、何事も流派を問わず学ぶべきものから学ぶという姿勢にひかれてきた▼モンテーニュの時代はヨーロッパで宗教戦争が絶えず、新旧勢力が血で血を洗っていた。「正義」が乱立する世の中で、できあいの派閥や思想によらず、「わたしが何を知っていようか」と問いかけ疑うにはどれだけの勇気が必要だっただろう▼国際情勢はきな臭く、国内政治も落ち着かない。せめて身の回りのことからでよい。無知を自覚し、寄りかからずに懐疑の精神を保つ勇気だけは忘れまいと気を引き締める。 (芝﨑)

(ニュース和歌山/2017年9月2日更新)