4月下旬、JR和歌山駅前で「あしなが学生募金」が行われました。病気や災害、事故などで親を亡くした子どもたちの進学を支援する募金活動で、春と秋に全国で実施されています。年間約5000人が支援を受ける運動は今年、50年を迎え、これまで集まった1100億円の寄付で、10万人の子どもたちの進学を後押ししてきました。

 私は高校時代の3年間、この活動に参加しました。校内での募集に、友人と興味本位で応募したのがきっかけです。当日は20人ほどで街頭に立ちました。

 初めは緊張して声が小さく、寄付を呼びかける文章をそのまま読むだけ。説明書きのチラシも遠慮がちに配っていました。「募金活動って大変」と思い始めたころ、目の前を通り過ぎた女性が足を止め、わざわざ戻ってきて寄付してくれました。「お疲れ様。頑張ってね」。笑顔で声を掛けてくれたその人に、みんなで「ありがとうございました」と目一杯の気持ちを込めて伝えました。

 道行く人に寄付を呼びかける活動は、教科書で学べない貴重な経験でした。見知らぬ人への声のかけ方、人の流れの把握、寄付してくれた人への態度、仲間との協力など、一つひとつが社会に出て何らかの場面で生きる能力です。当時は「親を亡くした遺児のために」と思い、寄付してくれた人の温かな心に救われていましたが、それらの経験は自らの社会勉強へとつながっていたのです。

 この春、あしなが学生募金の大学生スタッフが各地で不足しているとニュースになりました。奨学金を受けている学生らが全国でボランティアを集めて街頭募金を行いますが、その多くがアルバイトをしないと生活が苦しくなっているそうです。茨城では、スタッフが最盛期の半分になり、行政との打ち合わせやボランティアの募集など、1人にかかる負担が大きくなっています。秋田ではボランティアが前年の3分の1に減り、学生スタッフも不足しています。

 学生時代は様々な物事に触れ、価値観をつくり上げる大切な時期です。ボランティア活動はそうした経験を積める貴重な場と言えます。この20年で世帯収入は下がり、学生に過酷な労働を強いるブラックバイトや会社員の過労死など、様々な歪みを生みました。こういう時代だからこそ、「お金にならないもの」の価値を学ぶ機会、若者に残したいものです。(林)

(ニュース和歌山/2017年5月27日更新)