3年後に東京オリンピックを控え、政府が訪日外国人を増やそうと力を入れています。和歌山市では、2014年に6万人だった外国人宿泊客が15年に10万人を超え、昨年は15万人突破と、急増しました。

 伸びを支えたのは、爆買いに訪れた中国人団体客です。大阪はホテルが満室のため、関西空港や心斎橋から和歌山市に夜到着し、朝出発するのがパターン。単に宿泊場所として活用するだけで、和歌山城はもちろん、和歌浦も紀三井寺も素通りです。

 最近は大阪でホテルの開業が相次いだ影響から、中国人の団体宿泊客は減少気味です。和歌山が目的でないなら、便利な大阪に泊まるのは当然でしょう。それを嘆くより、大切なのは和歌山の魅力を高めること。

 先日、イタリアの海岸沿いにある都市の再生を研究する陣内秀信法政大学教授が雑賀崎で講演しました。背景には、雑賀崎の海に面した斜面に家屋が広がる様子が、イタリアのアマルフィに似ていることがあります。

 陣内教授は、単に海からの景観だけでなく、町に至る道路や階段の様子も含めた生活感も似ていると強調。さらに、アマルフィには地元の魚介類を楽しめるレストランが多く、海から町を眺める遊覧船があるなど、町を楽しむ仕掛けが準備されていることを説明しました。

 雑賀崎も観光における潜在力は大きい。ただ、観光の視点で町をとらえる意識が乏しかったのではないでしょうか。

 例えば、漁船から直接魚を販売していますが、新鮮な魚介類を購入しても、それを現地で食べられる施設はありません。海を見ながらゆっくりと食事を楽しめる場所は数えるほどしかなく、せっかくの景観を海から味わえるよう、雑賀崎を発着する船もありません。

 新しく施設を造らなくても、既存の家屋や倉庫を活用すれば、食事を楽しむ場を設けるのはそれほど難しくないはず。内川を活用した地域づくりに取り組む武内淳さんは聴講後、「市の中心部と雑賀崎を内川経由で船で結べば、雑賀崎の魅力を和歌山市の魅力としてアピールできる」と話していました。

 突拍子もない案とは思いません。和歌山の魅力をアップし、味わえる仕掛けをすれば、人は来る。尾花正啓和歌山市長は「『雑賀崎に似たアマルフィ』と言われるぐらいに」と語っていましたが、一工夫すれば、あながち夢でないでしょう。(小倉)

(ニュース和歌山/2017年6月10日更新)