皆さん、最近電車に乗りましたか? 和歌山はとかく「車がないとねぇ…」と言われがちですが、猫が駅長になって、ついには電車や駅舎になったり、パンダが特急電車になったり、電車同士が結婚して新婚旅行に出かけたりするなど、実は鉄道の話題に事欠かない地域です。私自身も研究実践として、地域学習をしながら鉄道防災を学ぶ「鉄學」という取り組みを進めています。
鉄道好きの皆さんにはすでに常識ですが、和歌山には日本一短い鉄道がありました。御坊市内を走っている「紀州鉄道」は、線路の保有と経営を一体的に行う鉄道事業者として、2002年に千葉県の芝山鉄道が開業するまで日本一短く、今は2番目となっています。
しかし、その前から、日本一短い鉄道事業者があります。それは「和歌山県」です。線路だけを保有し、運行は南海電鉄が行う「第三種鉄道事業者」で、区間は和歌山市久保丁四丁目(旧久保町駅)から和歌山港駅までです。乗客には南海和歌山港線として案内・運行されているので、なかなか気づかないでしょう。
さて、いよいよ来月からはJR西日本の新たな長距離列車「ウエストエクスプレス銀河」もやってきます。観光列車がたくさんある和歌山に新しい仲間が加わります。観光列車が来ても即時的に鉄道路線の維持につながるかと言われれば悩ましいですが、観光の魅力である非日常性の創出だけでなく、新しい鉄道の楽しみ方や地域資源の再発見、地域の誇りの気づきなど、鉄道が持つ多面的価値の再確認になります。この再確認のプロセスに意識的・無意識問わず参画していくと、「自分ゴト化」、すなわち、当事者意識が芽生えてくるでしょう。
和歌山駅と貴志駅を結ぶ和歌山電鐵貴志川線は、和歌山自慢の地方交通再生のモデルで、廃線危機の時に立ち上がったのは市民でした。和歌山線を盛り上げようと取り組む「ぼくらの和歌山線活性化プロジェクト(ワカカツ)」の中心は沿線の高校生、きのくに線で活動する「きのくに線活性化プロジェクト(きの活)」の中心は和大生。鉄道が持つ多面的価値を再確認するプロセスに多くの市民や若者がいます。これが和歌山最大の財産であると思います。
和歌山大学准教授 西川 一弘(第2土曜担当)
(ニュース和歌山/2021年6月12日更新)