「和歌山人こそ、山椒リテラシーを高めるべき」。農業に携わる知人のその言葉に、ドキッとさせられました。いわく、「家庭や食堂で見かける瓶入りの粉山椒は茶色く、味も劣化したものがほとんど。それは本領ではない」と。

 確かに、山椒の生産量日本一を誇る和歌山県に暮らし、うなぎの蒲焼きとどちらが主役か分からないほどまぶす私でさえ、無知でした。まもなく土用の丑の日を迎える今回は、一大産地・有田川町清水地域にある、きとら農園の新田(しんだ)清信さん(39)から聞いたお話を紹介します。

 新田さんは、平均年齢80歳の清水地域で最年少のぶどう山椒農家です。2011年にUターン就農し、生産から加工、オンライン販売まで行う6次産業化に励んでいます。山間にある農園に伺うと、名前の通り、小さなぶどうに似た房が、背の低い木々に実っていました。一粒受け取って軽くつぶすと、驚くほど華やかな香り。「ミカン科なので、鮮度のよいものは柑橘類のような香りがするんですよ」と話します。

 今がまさに旬。4月中旬に希少価値の高い花山椒、5〜6月に実山椒、7〜8月に粉山椒のもとである乾燥山椒の収穫時期がやってきます。

 きとら農園でいただいた若葉色の粉山椒は、初めにピリッと刺激的なアクセント、最後に口の中にふわっと広がる豊かな香りで感動しました。これまでの概念を覆される思いでしたが、これが本領なのです。

 この風味と色味を求め、ミシュラン3つ星を獲得した京都の料亭や、東京の2つ星フレンチレストランから注文が入っているそうです。

 新田さんによると「ヨーロッパの一流シェフもチョコレートやチーズとの相性がよいと絶賛しています」。世界からも注目されている山椒。地元の私たちこそが、この素晴らしさにもっと興味を持つべきではないでしょうか。

フリー編集者 前田有佳利(第3土曜担当)

(ニュース和歌山/2021年7月17日更新)