ひと月程前、庭の夏みかんの木にナミアゲハの幼虫を見つけた。花の咲く時期、アゲハが集まるのに、青虫を見つけたのは初めてだった。サナギになる前の、美しい緑色をしたこぶりの幼虫で、葉陰に潜んだり、枝を移動したり。愛らしく、観察が日課になった▼離れて住む家族に写真を送ると、「小さな生物が付いている」と指摘された。幼虫に卵を産み付けるハチの仲間かもと言われ、焦って見ると、少し違った。それでも追い払った▼それからは鳥の声まで脅威に感じた。天敵がいてもだれも守ってくれない赤ちゃんが一匹、危険を引き受け堂々と生きていた。幼虫に威厳すら覚え、あえて飼わなかった▼夜、すごい勢いで葉を食べるのに驚いた翌日、姿が消えた。うろたえ探し回った。調べると、サナギになる前に木を移るほど大移動することもあるらしい。そうに違いないと自らに言い聞かせた。昆虫の動きが活発になる季節、様々な生態は物の見方を豊かにしてくれ、ドラマをも感じさせてくれる。 (髙垣)
(ニュース和歌山/2021年7月17日更新)