和歌山市の芝田達也さん(67)と浩子さん(61)がキャンピングカーで全国を巡り始めたのは2007年冬。以前、読んだオートキャンプの旅日記に魅せられ抱いた達也さんの夢でした。
四国から始め、遠くなるに従い期間も長くなります。そのうち旅の流儀ができてきます。観光地に寄らず、道の駅を目指す。「意図せず、人と出会う。これが醍醐味です」
北海道では4ヵ月も同じ場所でキャンプをする和歌山の人に会いました。福島で出会った写真家とはその人が住む千葉で再会、2人の写真を撮ってもらいました。北海道長沼町には〝いきつけ〟のカフェも。達也さんは「一期一会を重ねる旅が素晴らしい。同じような旅をしたいと言ってもらいます」と話します。
昨春、新型コロナウイルス感染拡大で旅が難しくなり、予想外の事態が訪れます。達也さんに腎盂がんが判明。転移はなく、左の腎臓と尿管を摘出せねばならなかったのですが、外科手術だけで乗り切れました。しかし、2ヵ月後、今度は浩子さんの右胸に乳がんが判明、浩子さんは全摘出を選びます。苦しい治療はなく淡々と過ごしたつもりでしたが、「術後、家に帰り、なんとも言えない気持ちになり泣きました」と振り返ります。
コロナ禍の面会禁止で、入院生活は不自由でしたが、家族の支えは力でした。浩子さんが摘出を決めた時、次男の厚作さん(27)が摘出前と後の姿を写真に収めようと申し出てくれました。「本当は自分の姿を残したいと思っていたのですが、自分から言い出せず…。そしたら息子が言ってくれたのです」と喜びます。
この人生の難所を旅の一幕に加えた「旅するサバイバー展」の準備を2人は進めます。旅の様子を紹介する写真や病の経験をアートで表現した作品。イラストを手がける浩子さんの作品も並びます。「病気の経験を口にすると、黙っていたけれど、実は私も…と明かしてくれる人が多く驚きます」
旅路はむろん新たな出会いは見知った人との間にもある。日常にも病の途上にも旅の輝きはあると教えてくれます。 (髙垣善信・ニュース和歌山主筆)
旅するサバイバー展
10月3日㊐〜11日㊊、和歌山市築港の器とカフェと…扉。午前11時〜午後10時。10日㊐午後2時からトークとミニライブも。
(ニュース和歌山/2021年9月4日更新)