近年、出版界ではアナキズム関連の書籍刊行が活発だ。人類学者スコット『実践 日々のアナキズム』、国内では栗原康『サボる哲学』、森元斎『もう革命しかないもんね』、松村圭一郎『くらしのアナキズム』が話題になった▼アナキズムと聞くと政府を否定する危険思想と思う人は多いが、元々は違う。国家がなくても人間は支え合うとの人間性への信頼を基礎に置く。先の『実践〜』では、信号機が壊れた交差点は逆に事故が減ったとの調査結果にふれる。管理を解かれると、人間はより注意深く主体的になる。こういう人間本来の力を回復し、身近に信頼をつくれるか。各書はその問いを重ねる▼これは裏返せば、国家への不信の現れだ。コロナ対策、情報公開、経済と本当に国民目線で政府は考えているか。一連の書物は、その疑問を見限り、もう自分たちでやろうと呼びかけているようだ▼10月31日は衆議院議員選挙。投票へ向かいつつ、政府に頼らず、身近に何ができるか問うのも、いい思考実験かもしれない。 (髙垣)

(ニュース和歌山/2021年10月30日更新)