ある寒い冬の夜のこと。田辺市での仕事を終え、家路を急ぎ、車で北上していました。あいにく工事のため、高速道路が一部通行止めになっており、やむなく途中から一般道で帰ることに。人の気配や街灯の少なさに不安を覚えながらカーナビの案内に従っていると、突如として、キラキラ輝くビニールハウスのようなものがよぎりました。

 最初は「おしゃれな飲食店のイルミネーションがちらっと見えたのかも?」と思い、そのまま山間や海沿いを走り抜けると、各所で同様の灯(あか)りが度々現れたのです。宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』のような展開に、車を止めて確認する勇気は出ず、その夜はまっすぐ和歌山市の自宅へ帰りました。

 その美しく奇妙な体験が気になり、後日調べたところ、カスミソウの電照栽培だと分かりました。実は、和歌山県はカスミソウの生産量が全国3位。特に御坊市名田町野島や印南町島田と、みなべ町西岩代周辺は関西有数の産地です。JA紀州いなみ営農販売センターによると、温暖な和歌山では昔からカスミソウ栽培が行われており、成長を促進するため、気温が低下する時期の夜間は白熱電球を用いているそうです。

 電照栽培のタイミングは生産者によって多少異なるものの、全体的な傾向は9〜3月の日没〜22時ごろ。10年前から一部ではLEDの導入も始まっているといいます。

 灯りの正体を知ってホッと安心し、先日、カスミソウの電照栽培を確認するべく、みなべ町の一般道を走ってみました。改めて見ると、暗闇にきらめくビニールハウスは何とも壮観。和歌山の伝統的な生産現場の力強さを感じながら、12月ということもあって一足先にクリスマス気分を味わうことができました。

 カスミソウの花言葉は「感謝」や「幸福」など。2021年の締めくくりに、お世話になった人へカスミソウの花束を贈るのもいいかもしれませんね。

フリー編集者 前田有佳利(第3土曜担当)

(ニュース和歌山/2021年12月18日更新)