森の中に1匹の子犬がくらしていました。この子犬には、「空を飛びたい」という夢がありました。毎日毎日夢のことばかり考えていました。ごはんを食べている時も、「高い所で、ごはんを食べたらもっとおいしいだろうなー」とためいき。わたがしみたいな雲を見ては、「空を飛べたらあの雲を食べられるのになー」とためいきをついていました。
ある日、空を飛んでいる青い鳥にさけびました。「おーい鳥さん。飛び方を教えてよ!」。すると鳥は近くにおりてきて、言いました。「飛ぶのなんかかん単だな。おちるより早く羽をはばたかせればいいのさ」
次の日、すごくよいお天気になりました。森の中の湖に子犬はやってきました。湖のそばには岩があります。子犬は自信まんまんで鼻をふくらませながら、「よし! ! 空を飛ぶぞ!」と岩にのぼりました。助走をつけて走り、岩の上から手をはばたかせながら、ジャンプ! 湖にポチャーン! 「今度はもっと早く手を動かそう」。もう一度チャレンジ! ! 湖にポチャーン。何度も何度もやってみたけど、失敗ばかり。
その様子を見ていた青い鳥が近くにやってきました。「犬には空を飛ぶのは無理さ。羽がないんだから! !」と羽を見せつけるようにはばたかせ、去っていきました。子犬はがっかりしました。青い鳥がいた場所に羽がおちていました。「こんな羽、ぼくにはないなー」。いつの間にか雨がふっていました。風もふいています。あらしがやってくるようです。
次の朝、あらしが去り、よい天気になりました。外に出ると、鳥たちがさわいでいます。「どうしたの」と子犬がきくと鳥たちは答えました。「青い鳥が帰ってきていない。ずっとさがしているけど見つからない。あらしで飛ばされたかも…」
子犬は考えました。昨日もって帰った青い鳥の羽をもってきて、においをかぎました、青い鳥のにおいです。子犬はにおいをかいでおぼえると、昨日飛ぶ練習をしていた湖の所まで走っていき、そこから、においをたよりにしてさがし始めました。
鳥たちは空から見わたして、いる所をさがしていました。なかなか見つかりません。子犬はあらしで折れていた木におしつぶされそうになりました。はしがとがった危ない木でした。雨でぬかるんだ急な地面から、すべりおちて足に切りきずや出血などというひどいけがをしてしまいました。それでも青い鳥のことを思ってひっしに青い鳥のにおいがしないかと、体がきずだらけになっても、ずっとさがし続けました。
たおれた木がかさなっている所にいった時にかすかに青い鳥のにおいがしました。いました! ! 青い鳥です! ! 羽をけがしています。「青い鳥さん大じょうぶ?」。子犬は聞きました。「あらしで飛ばされ、木にうちつけられて、羽をけがしたんだ。体も強くうって、声もあまり出ないよ」とよわよわしく答えました。
子犬は青い鳥を背中にのせて歩き始めました。「ありがとう。見つけてくれて。もうだめだと思ったよ。ぼくの仲間は空からしか見つけられないから。君はぼくのにおいで見つけてくれたんだね。あー。君の背中はふかふかでとってもあたたかいよ」
数週間たちました。子犬はいつもの湖の所でねそべっていました。けががなおった青い鳥がやってきて、言いました。「子犬さん、やっときずがなおったよ。ありがとう。今日は飛ぶ練習はしないの?」と青い鳥が聞きました。「うん。羽がなくても、空を飛べなくてもぼくはぼくだから。でもね。あきらめたわけじゃないよ。いつかは飛んでやるさ。そして青い鳥さんたちといっしょに遊ぶよ」
子犬はニパッと笑って「ワン!」とほえました。
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おはなしボランティアきいちご代表、中村有里審査員…子犬が青い鳥を見つけ出す場面に、相手を思いやる強さが伝わってきます。自分の良さに気づき、「ぼくはぼくだから」と言えるところが素敵です。夢をあきらめない気持ちに、思わずエールを送りたくなるような作品でした。
(ニュース和歌山/2018年1月13日更新)