ニュース和歌山正月号恒例「干支が主役! 創作童話コンクール」。10回目を迎えた今年は、にわとりを筆頭に、とりたちが生き生きと活躍する190作品が寄せられました。この中から最優秀賞に輝いたのは、海南市立亀川中学校2年、御前ひなたさんの「にわとりさんの時報」。漫画家、いわみせいじさんの挿絵と共に、メルヘンの世界をお楽しみください。
2008年のねずみから始まったコンクール。審査は、ニュース和歌山土曜号で「和歌山さんちのハッサクくん」、第2・4水曜号で「チャーラがひとりごと言うチャーラ」を連載する海南市出身の漫画家、いわみせいじさん、県立図書館などで絵本の読み聞かせ活動を展開するおはなしボランティアきいちごの代表、北裏祐子さん、14年に児童文芸新人賞を受賞した和歌山市出身の児童文学作家、嘉成晴香さんの3人が4年連続で担当しました。
10回目の今回は小学生81人、中学生58人、高校生51人の計190人から応募がありました。審査の結果、にわとりに加え、からす、ふくろうが登場する独自のストーリーが光った御前さんの作品が最優秀賞に選ばれました。御前さんは昨年、「さるの服屋さん」で優秀賞を受賞しており、2年連続での入賞となりました。
なお、優秀賞以下の入賞7作品は1月7日以降のニュース和歌山土曜号で順次掲載しますので、合わせてぜひご覧ください。
にわとりさんの時報
「コケコッコー!!」
今日も、町全体に響く大きな声で鳴いたのは、にわとりさん。いつも朝の決まった時間に鳴いているにわとりさんは皆の目覚まし時計。にわとりさんの声で起きたらまた一日のスタートです。
ある日、にわとりさんが町を歩いていると、どこからか声がしました。「にわとりさん、にわとりさん。僕はこっちだよ」。ふり返ると、そこには犬くんと羊さんがいました。犬くんは「ちょっとお願いがあるんだ」と言いました。
「なあに」「あのね、朝に鳴くのをやめてほしいの」と羊さん。「どうして?」「にわとりさんが鳴いちゃったら、僕たちは起きなくちゃいけない」「そうか、じゃあ明日は鳴かないよ」。にわとりさんは悲しそうに言いました。犬くんと羊さんは、「やったぁ」と喜びながら走ってどこかに行ってしまいました。
その日の昼に、また歩いていると、警察のからすさんとばったり出会いました。「こんにちは、からすさん」「こんにちは、にわとりさん」。二人は握手をしました。「にわとりさんも言われたかい」「何を?」「鳴かないでって。僕は、夕方のパトロールで鳴いたら家に帰らなくちゃいけないからって言われたよ」「私も言われましたよ」。二人は肩をすくめて笑いました。
すると、そこにふくろうさんもやって来ました。「こんにちは」「ひょっとして、お二人も?」。そう言ったふくろうさんに、二人は顔を見合わせてからうなずきました。「私もです。ふくろうさんが鳴いたら寝なくちゃいけないからって」。三人は、そのまま家に帰りました。
次の日、にわとりさんが起きると鳴く時間までもう少しでした。にわとりさんはあわてましたが、今日は鳴かないと思い出すと、からすさんの交番へ行くことにしました。
さて、困ったのは町の動物たちです。いつもみたいにのんびりと歩いている人はなく、皆は走って大あわて。いろんな所で頭をごっつんこ。皆は思いました。「どうしてにわとりさんは鳴かなかったんだろう」
その頃、にわとりさんは交番につきました。「あれ? にわとりさんも」「ふくろうさんも来てたんだ」。また三人そろって笑いました。
町ではまたまた大さわぎ。町の子どもたちが夕方になっても帰って来なくて、お父さんやお母さん、町の人たち皆で探しに行ったり、夜になっても皆はまだまだ遊びたりなくて、寝ようとしません。町の人たちは三人を探しました。
その頃、三人が交番でおしゃべりしていると、犬くんと羊さんがやって来ました。「こんにちは、どうしたの」。からすさんが話しかけると、「ごめんなさい」と、二人はそろって言いました。「一日鳴かないだけで、皆大こんらんで…。やっぱり、三人に鳴いてもらわないと困るんだ」。三人は顔を見合わせてニッコリ笑いました。「もちろん!!!」
次の日、朝がやって来ました。「コケコッコー!!」。また、今日の始まりです。
御前さん 「夢の1つは小説家」
現代っ子らしく、小説を書くためのアプリを使い、中学1年の初めから作品をしたためている御前さん。今回の作品は「にわとりは朝を告げる鳥。そこからイメージを膨らませました」。にわとりだけでは物足りず、別の時間帯に鳴く鳥を探し、からすとふくろうを登場させました。
工夫したのは、冒頭とラストの文章を似た形にした点。「いつもの日常に戻ったことを表現しました」と説明し、「この童話を通じ、どんな人の欠点も長所にもなりうるということを伝えたい」。
今はいくつかあると話す将来の夢。その一つは小説家だそうです。
漫画家 いわみせいじ審査員
文頭から最後まで非常によくまとまっています。ストーリーしかり、キャラクターの設定、役割、意味合いしかり。作者は文章を書き始める前に随分と手間をかけています。しかもその手間を楽しんでいるかのようです。お話の締めくくりの1行。何気ない言葉なのに、私たちの未来に光を差してくれる。そこにも高いセンスを感じます。
おはなしボランティア きいちご代表 北裏祐子審査員
時を告げる役割が、それぞれの鳥の鳴き声にあるという発想がいいですね。会話文を効果的に使ってお話を進め、その言葉の中にやさしさも感じられました。好きな時間まで寝て遊んで夜も起きていたい犬くんと羊さんの願いは、子どもの気持ちに寄り添っていて読者も共感できるのではないでしょうか。思わず笑顔になるラストも文句なしです。
児童文学作家 嘉成晴香審査員
にわとりだけでなく、他の鳥たちをうまく物語に取り入れたのが見事です。読みやすく、情景が自然と頭に浮かんできます。登場人物(動物?)たちのキャラクターもしっかり描かれ、説明がなくとも表情まで伝わってきました。みんな仲良しなのも、作者の方の世界をうまく作っている魅力の一つですね。タイトルは、もう一ひねりほしかったなぁ。
(2017年1月3日号掲載)