ある家に、ニワトリのとりの助と、飼い主の山田さんが住んでいます。山田さんは、スーパーで朝早くから働いています。そして、とりの助も朝から働いているのです。
最初の仕事は山田さんを起こすことです。毎日6時半に山田さんのいる部屋に侵入すると、「コケコッコー」と、とても大きい声で山田さんを起こすのです。しかし、山田さんは朝に弱いので、すぐには目が覚めません。
「クソッ。全然起きねぇじゃねぇか」。そう言うと、とりの助は立派なとさかを見せつけるように、山田さんの顔に向かって頭突きをします。「うわっ」と山田さんはとび起きますが、とりの助は、「このオレの立派なとさかの感想は、ねぇのかよ」と不満気です。なぜなら、ヒヨコからニワトリになったとき、山田さんは毎日、「立派なとさかだね。さすがとりの助だよ」と言ってくれていたのに、今日は何も言ってくれなかったのです。
次の仕事は、新聞をポストから持って来て、番組表の部分を開き、こたつの上に置くことです。「今日は、このドラマの録画をしないと」。山田さんは、リモコン片手に新聞を見ながらつぶやきます。とりの助は、役に立ったうれしい気持ちになりました。でも、とさかの事を思い出して「うれしくねぇし」と近所の公園へと歩いて行きました。
公園には、友達のポー子ちゃんがいます。ポー子ちゃんは今、家出中だからです。「やあ、ポー子ちゃん」「あっ、とりの助くん。今日もそのとさか立派ね」「ありがとう」。その後もたくさん話をして、「もう暗いから帰るよ」「バイバイ」と言って家に帰りました。
家に帰ったものの、山田さんは仕事から帰って来ていなかったので、待つことにしました。「まだ、帰ってこねぇのか」。それから10分ぐらいたつと、「ただいま、今日でとりの助が来て、8年たったねぇ」と、家に入りながら、言うのです。「えっ。そうなのか」。山田さんは、いつもより高級なエサを持ってきて、「あいかわらず、立派なとさかだね」と、とりの助の頭をなでました。とりの助の、朝からのもやもやしていた気持ちはスッキリして、「ありがとう。これからもよろしく」という感謝の気持ちになりました。
とりの助の最後の仕事の時間が近づいてきました。その仕事は、寝た山田さんの部屋の電気を消すことです。山田さんが寝たのを確認して電気を消すと、「明日も仕事がんばろう」と思いながら、とりの助も寝ました。
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児童文学作家、嘉成晴香審査員…ニワトリという動物をうまくとらえた作品です。とさかにかける思いに、雄々しさと繊細さを感じます。2つの特徴は相反するようではありますが、統合すると愛おしく感じるのです。人間もこういうところ、ありますよね。
(ニュース和歌山より。2017年2月4日更新)