和歌山発祥のブドウハゼ。この実から抽出した木蝋(もくろう)を材料に、紀美野町のりら創造芸術高校で女子生徒2人が化粧品作りに挑戦している。江戸時代から昭和中期まで同町や海南市で盛んだった木蝋産業は衰退し、風前の灯に。近年、木蝋は化粧品の原料として海外からの需要が高まる中、2人は「原木のある紀美野町産100%の天然化粧品ができれば、地域おこしに活用できる」と意気込んでいる。

りら創造芸術高生2人 紀美野産材料にコスメ発案

クリームを試す髙井さん(右)ら

 ブドウハゼは、紀美野町で栽培していたウルシ科のハゼノキが1830年ごろ、突然変異し生まれた樹木。実をしぼり抽出した木蝋は融点が高く、色つやや伸びが良いと、和ろうそくや力士の髪を結う油など古くから利用されてきた。

 同町では江戸時代から昭和中期まで盛んに栽培された。明治時代には1654㌧もの実を収穫していたが、石油系の洋ろうそくの台頭で、最近は1〜2㌧まで激減した。伝統的な手法でしぼる製蝋所や職人も危機的状況で、現在、和歌山県内は海南市の吉田製蝋所のみ。一方、天然志向が広がる海外を中心に、化粧品の素材として見直されている。

 こんな中、産業復活の一歩にと、木蝋を使った化粧品作りに挑戦しているのが、りら創造芸術高校2年の髙井遥香さんらだ。

 同校は授業の一環でブドウハゼを調査し、先輩らが2017年、枯死したとされていた原木と見られる木を同町の山中で発見した。19年には向陽高校生が調査に協力し、この木が原木と判明。昨年1月、県天然記念物に再指定された。
 昨年春に活動を継いだ2人は、かつて地元の重要産業だったと知り、商品化を一念発起。天然コスメに興味を持つ髙井さんは「歌舞伎役者が毎日おしろいを塗っても肌荒れしないのは、下地に使われる木蝋に理由があるのではと考えました」。

ブドウハゼ(左)と木蝋

 まずはクリーム作りから。吉田製蝋所から特別に分けてもらった地元産ブドウハゼ100%の木蝋と、3種類の油で試作し、県産のコメ油と町木の榧(かや)の種からできたカヤ油を使うと決めた。髙井さんは「カヤ油を加えるとクリーム状になった。手や身体用のクリーム、リップ、チークなど夢がふくらみます」。

 こだわりは地元の香りだ。油にも使った榧に着目し、手作りの蒸留装置で実から精油を抽出した。木々を感じるすっきりした香りがセールスポイントで、「紀美野産のオーガニックコスメです」とにっこり。

 試作品は1月、県主催のブドウハゼ産業化情報交換会で発表予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期に。「高校生の姿が企業の後押しにつながれば、産業の復活も遠くない」と県がPRし、県内外の企業が関心を示している。橋本市の精油製造会社、キセイテックの東美樹さんは「商品化にはいくつかハードルはあるが、地元産にこだわり、榧の香りを抽出までする創意工夫に感動した。協力したい」。また、吉田製蝋所の吉田忠司さんは「木蝋産業は風前の灯。自然素材が見直され、若者が挑戦するのはよい傾向です。製蝋技術もあきらめず、次世代につなげます」と話す。

 県林業試験場も、化粧品用にと木蝋の色を抜いた白蝋を試作し提供した。2人はこれを使い改良を進める予定で、「ブドウハゼを守るため、木蝋の可能性を示し、地域産業の復活を目指します」と描いている。

(ニュース和歌山/2021年2月13日更新)