時代の変化や少子化の進展などにより、従来型の学校運営では十分な学びや育ちが見通しにくい中、現代にマッチした、また、将来を見据えた教育が必要とされています。就任以来、一貫して子どもたちの自主的な取り組み支援に力を注いできた宮﨑泉教育長に、主体性ある人材の育成、新時代にふさわしい学校のあり方や方向性について、西山徳朗ニュース和歌山編集長が聞きました。

 

 

写真=「子どもたちの潜在能力を引き出す仕掛けが必要」と語る宮﨑教育長

 

資質能力のさらなる向上へ 切磋琢磨する教員を支援

西山 徳朗ニュース和歌山編集長

西山編集長(以下、西山) 教育長に就任されて4年目、また、「信頼される質の高い教育環境づくり」等を基本的方向に定めた第3期和歌山県教育振興基本計画の最終年度でもあります。振り返って、手応えはいかがでしょうか。

宮﨑教育長(以下、宮﨑) 一年一年仕事を重ねる中で、教育長就任当時から懸案だと感じていたことを、ひとつずつ形にしてきました。まず必要だと思ったのは、高校の再編整備に道筋をつけることです。これについては、3月に「県立高等学校教育の充実と再編整備に係る原則と指針」を作って、高校教育の充実に向けた取り組みが緒に就き始めました。また当初から、教員の資質能力の向上も大事だと思っています。様々な研修を充実させるのはもちろんですが、教員がお互いに切磋琢磨しあうのが一番いいと思ったので、自主的に行う教科研究団体の支援を始めて3年になります。

 このような施策の結果が出てくるには、いくらか時間がかかるかもしれませんが、その成果には大いに期待しています。

 

安心・安全な居場所づくり

西山 新型コロナウイルスの影響もあるかと思いますが、今年の小・中学校における不登校の児童生徒数が、全国でも和歌山県でも、過去最高との調査結果が出ました。これについてはいかがお考えですか。

宮﨑 本当に大きな問題だと思っています。学校は全ての子どもにとって安心・安全な居場所でなければなりませんので、欠席しがちな子どもに対しては、マニュアルを活用して早期に対応したり、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーによる相談体制を充実させたりしています。しかしながら、不登校の要因や背景は一様ではありませんので、その原因究明に加え、子ども一人ひとりに応じた支援体制を整えることや、学校以外でも学びを保障できるシステムづくりに引き続き取り組んでいきたいと思っています。

 

活力ある元気な学校に 自主的な取り組み後押し

和歌山市立宮小学校では、わかやまスクールパワーアップ事業を活用し、絵本作家を招いて読み聞かせを開催。子どもたちに本物に触れる機会を提供した。(今年10月)

西山 今年度から、「わかやまスクールパワーアップ事業」を立ち上げられました。主体性や独自性に重点を置いた施策で、すでに実績を上げている学校もあると聞きます。導入のねらいを教えてください。

宮﨑 学校や子どもたちにとっても、自主的に取り組む姿勢が大事だという思いから、児童生徒の力を伸ばしたり、学校や地域の活性化につなげたりする、学校の主体的な取り組みを支援するねらいで始めました。

 この事業を活用して、和歌山市立宮小学校では、コミュニティスクールで従来から取り組んできた読書活動の充実につなげています。絵本作家を招いて、作者本人が読み聞かせをしたり、絵本に出てくる料理を再現した給食を味わったりする一連の取り組みを、私も見てきました。子どもたちが喜んでいる様子が手に取るようにわかりましたし、本物を見て、聞いて、触れることで、子どもたちの心に響くものが芽生えたと感じました。

 学校が元気になれば、子どもも元気になると思います。各学校にこの事業をどんどん活用してもらって、活力ある学校を作っていただきたいと願っています。

 

地域の協力で部活動を補完

部活動に励む生徒

西山 公立中学校の部活動を、民間のクラブや指導者へ委ねる「地域移行」が、来年度からの国の大きな流れとなっています。和歌山での現状や見通しなどはいかがでしょうか。

宮﨑 少子化の進展などにより、県内では、少ない生徒と教員で満足な活動ができなかったり、合同チームを結成して大会に出場したりする中学校の運動部も多くみられます。部活動は学校中心という方向性は今のところ変わりませんが、それを補完するという意味で、地域のスポーツクラブなどを活用して、子どもたちが十分に活動できる環境を、まずは運動部から作っていきたいと考えています。今後は、指導者の質や信頼感の担保、費用面など、多くの課題の解決にあたっていきます。

 

複数応募導入でミスマッチ解消

西山 高校生の就職活動に関して、今年3月の新規高卒者から「一人一社制」を見直し、生徒がより自らの意思と責任で就職先を選択できる「複数応募制」を導入しました。制度も2年目となり、随分と浸透してきたと思います。どのように考察されていますか。

宮﨑 経済界・産業界の協力のおかげで、複数応募を受け付けてくれる企業が増えました。生徒からも、「企業見学や面接練習など事前の準備が大変だったけれども、自分の将来をしっかり考えることができた」との感想が聞かれるなど、複数応募のメリットが生かされているようです。

 一番大事なことは、生徒が、行きたい企業のことをよく研究し、納得の上で就職することだと思います。そうすれば、早期離職の一要因となっているミスマッチの解消にもつながります。複数応募制がその一助となるよう、制度として定着させていきたいと考えています。

 

大舞台が子どもたちを育てる

世界津波の日高校生サミットで、国内外の参加者に向け、研究成果を英語で発表する和歌山県の高校生たち。(今年10月、新潟県)

西山 ありがとうござました。最後に来年に向けて、今の思いをお聞かせください。

宮﨑 今年10月、新潟県で開催された「世界津波の日 高校生サミット」に出席して、和歌山県から参加した高校生が物怖じせず、英語での発表や質疑応答に対応する姿に感心しました。子どもたちは、与えられる舞台が大きければ大きいほど、それに応じて大きく成長します。このことは、昨年の「全国高等学校総合文化祭 和歌山大会」でも、今年7月の「宇宙シンポジウムin串本」でも感じたことです。子どもたちはそれぞれに高い潜在能力を秘めているだけに、それを引き出せるような仕掛けをしていかなければいけないでしょう。

 これからは、今までよりももっと様々な立場や背景を持つ人たちが共生していかなければならない時代です。多様性の尊重こそが最も必要なことだと思います。誰もが等しく社会に参画できるよう、子どもたち一人ひとりが、自己の生き方を主体的に考え、生涯を豊かに生きていけるような教育が求められていると感じています。

(ニュース和歌山/2022年12月24日更新)