創意工夫を凝らしたおばんざいで家庭料理を届けるヒコタロウが6月、和歌山市北相生丁に移転した。店主の亀田ももさん(35)は、七曲市場で64年間親しまれてきた実家の「西村天ぷら店」の味を引き継ぐ。「思いを込め、丁寧に作り込んだ料理は人の心を温かくします。身も心もホッとできる場所にしたい」とほほえむ。
〝なじみの味〟継承
──店名の由来は。
「実家が七曲市場の天ぷら屋で、ヒコタロウは商売を始めた曾祖父の名前です。お年寄りが食べやすいようイカの筋を丹念に取り除いたり、魚の骨を抜いたりと、一つひとつ丁寧に仕事を積み重ねる両親や祖父母の背中を見てきました。こうした個人店が市場にたくさんありましたが、近年は閉店が続き、この春に天ぷら屋も閉めました。大型店で全てがそろい、便利になったのは良いですが、大切な何かが失われているように感じます。実家の味を残し、手仕事の良さを伝えようと3年前に店を開きました」
──長く愛されてきた味を引き継いだのですね。
「はい。ランチは天ぷら、お造り、ハンバーグからメーンを選び、さらにおばんざい3品を自由に取ってもらいます。オススメの天ぷらはインゲン、なすび、イカ、エビなど野菜と魚介を7種類ほど盛り合わせ、揚げたて熱々。うちの天ぷらは昔から、胃腸が弱く、油物が苦手な人が『ここのなら食べられる』と買いに来るほど油っこくないんです。持ち帰り用の天ぷらと串カツ、アジのフライもあります」
多彩なおばんざい
──店の中央におばんざいがたくさん並びます。
「肉と野菜のバランスを取りつつ、選ぶ楽しさを感じられるよう毎日8種類は作ります。季節の野菜を使ったムースは人気で、『次はどんな味だろう』と楽しみにしてくれるお客さんが多いです。ひじきは煮物にせず、梅おかか味の和え物に、ズッキーニやセロリはきんぴらに調理します。身近な食材でありながら少し違った食べ方を提案したり、変わり種の食材を食べ馴染みのある調理法で作ったりと工夫します。みそ汁は3種類のきのこと4種類の野菜が入り、具だくさんです」
──元々、料理人志望だったんですか。
「いえ、前職は建築関係です。桐蔭高校を卒業後、短大で住環境を学び、20代はインテリアのコーディネートや住宅の営業販売をしました。しかし、飲食業にも興味があり転職。日本料理店でアルバイトをして魚料理など和食を学びました。ある日、年下の同僚がまかないをいただく時、『きのこは食べたことのあるシメジしか口にしない』と偏食でした。作り方次第でおいしく食べられるのにもったいないと感じ、健康の維持のため、毎日の食事である家庭料理で様々な食材を口にしてもらおうと、おばんざいにこだわっているんです」
──先月移転しました。
「元々あった建築事務所を自分たちでリノベーションしました。テーブルを手作りし、壁にペンキを塗り、座敷の部屋を設けました。10年近く趣味で続けている陶芸を生かし、自作した食器やご飯を炊く土鍋を使います。少し不格好なものもありますが、味があるようで気に入っています。コーヒーは手焙煎(ばいせん)し、ショウガ、サツマイモ、カボチャのケーキも作ります」
──今後は。
「既製品があふれる今、人の手で作る楽しさを伝えたい。コーヒーを楽しむワークショップ、音のつくり手であるアーティストを招いた音楽イベントも開ければ。人の温もりを感じ、人が自然と集まる店をめざします」
【ヒコタロウ】
和歌山市北相生丁19
午前11時〜午後5時
水曜定休、その他不定休
☎080・3854・0326
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(ニュース和歌山/2018年7月11日更新)