冬の定番料理、おでんに欠かせない練り物を製造、販売する和歌山市雄松町の濱辰商店。同市で最も古い114年の歴史をもち、長年愛される看板商品「扇かまぼこ」の味を守りつつ、新商品開発に情熱を注ぐのが嶋俊範常務(38)だ。「かまぼこの消費が減り、魚食離れが進む今、かまぼこの可能性を広げたい」と意気込む。

職人の技を継ぐ

──伝統の味を守ってきました。

 「和歌浦発祥ですが、約10年前、工場の老朽化で市街地へ移転しました。スケトウダラ、グチ、イトヨリなど白身魚のすり身に、酒やみりんなど調味料を加えて味つけします。創業時から受け継がれてきた扇かまぼこは、祖父で2代目の嶋栄一が和歌木山という四股名で春日野部屋に所属した力士だったことから、呼出が使う扇に見立てて名付けました」

──食べると歯ごたえがあり、かむほどに甘みが広がります。

 「扇かまぼこは敬老の日やお正月などの贈答用でよく出ます。切れが良く心地よい歯ざわりと、弾力のある食感が持ち味で味わい深い。一番かまぼこらしいかまぼこです。おでんでおなじみの練り物は、うま味が出汁ににじみ出るため味は濃く、甘みを強くしています。いずれもすり身を石臼で練り込み、職人の手で加減します。硬さや味つけは気温や湿度でも変わるので、手作業でないとできません」

──職人の技と経験が味を左右するんですね。

 「そうですね。子どものころから工場で職人さんの仕事を見て、隣で真似して遊んでいたので、そういった感覚を身体で覚えながら育ちました。この仕事を継ごうと、高校から店の手伝いをしていたんですよ」

スイーツ感覚で

──新商品の開発に力をいれます。

 「おせちを家で作らない人が増え、かまぼこが食卓に上がる機会は確実に減っています。危機感があり、様々な場面でかまぼこを食べてもらえるよう考えています」

──どんな商品がありますか。

 「あげかまシリーズは、ピリからごぼう、たまねぎ、ねぎしょうがなど豊富にそろえ、おかずの一品やおつまみ、おやつと幅広い世代に好評です。しらすステーキはステーキのような厚みのあるすり身に、和歌山産のしらすをぜいたくに練り込みました。ご飯をすり身で包んで揚げた『ばくだんおにぎり』は食べごたえ抜群。ドライカレー味は大人、チキンライス味は子どもに人気です」

──ユニークですね。

 「ほかに、アドベンチャーワールドのパンダにちなみ、パンダかまぼこを作りました。観光客に買ってもらえ、和歌山の味を届ける機会になっています。型を作れば文字やロゴを入れられるので、芸能人のイベントグッズや結婚式のプチギフトの注文もあります。手作業で大変ですが、細かな希望にこたえ、かまぼこのファンを増やしたい」

──スイーツのような商品もありますね。

 「小麦粉を多めに混ぜてワッフルメーカーで焼いた『カッフル』は味がプレーン、チョコチップ、紀州みかんの3種類あります。しっとりしたワッフルのような食感でカルシウムたっぷり。このほか、すり身に水を多めに入れてクレープ生地を作ったり、チーズケーキやガトーショコラにするなど試作を重ねています」

──今後は。

 「代々受け継がれてきた味を守りつつ、時代にあった商品作りを続けます。練り物でできることはどんどんチャレンジして、かまぼこをもっと食べてほしいですね」

【濱辰商店】
和歌山市雄松町3-48-1
9:00〜19:00 ㊌㊐休み
☎073-402-1755
インターネット(https://store.shopping.yahoo.co.jp/hamatatsu/)でも販売。

(ニュース和歌山/2018年11月28日更新)