創業130年、「日本で最も歴史のあるあんこ屋」を掲げるきたかわ商店は、和歌山市東紺屋町に店舗「一寸法師」を構えるあんこ専門店。内藤仁宏常務(66)と工場長で娘の志真さん(37)らがあんこと和菓子を製造する。2人は「『不易流行』をモットーに、長年積み重ねてきたこだわりを残しつつ、より良い味を求めます」と、新たな製法や商品開発に挑む。 (文中敬称略)

素材にこだわり

──どら焼き、きんつば、最中…。いずれも伝統のあんこが味わえます。

仁宏「100年以上、炊き続けてきたあんこ屋のあんこです。誇りをもって作ってきましたが、2012年に作り方を大きく変えました」

──何かきっかけが?

仁宏「はい。ある日、材料の卸売業者が一人の男性を連れて来ました。後に知るのですが、この業界では知る人ぞ知る放浪の菓子職人、小幡寿康さんでした。うちの粒あんを食べるなり、『このあん、くさってますわ』と言い放ったんです」

志真「驚きました。そこで、工場にある材料と道具で作ってもらうことになりました。すると、私たちと作り方が全く違う。業界では小豆を水に浸してから沸かすのが常識ですが、小幡さんは沸騰した水に小豆を入れ、沸き立たないギリギリの温度を保ち、短時間で小豆に火を通したんです」

──味に違いは。

仁宏「明らかでした。比べると、これまでのあんこは、まるで抜け殻。風味が全然違いました。職人のプライドよりも、『この味を届けたい』との思いが勝り、まず志真が教わることになりました」

志真「製菓担当で、あん炊きの経験がなかったのが逆に良かった。他の職人さんは昔からのクセがなかなか抜けず、教わった通りの味に行き着きにくいそうです。豆の洗い方、かき混ぜる速さなど一から教わり、炊き加減は目、耳、舌に集中し、小豆のツヤや香り、食感、甘さを覚えました」

──新しいあんこ。お客さんの反応は。

志真「しっかり小豆の良い風味が感じられると言ってもらえます。どら焼き、きんつばと用途に応じ、上白糖、グラニュー糖、氷砂糖などあんに加える砂糖を使い分けます。甘さは感じますが、甘さを引きずらないのが特徴。あんこは業務用であんパン、個人宅用は小倉トーストやかき氷などに使われます」

不易と流行

──日本一歴史があるあんこ専門店なんですか。

仁宏「1889年、北川勇作が大阪で北川製餡所を開いたのが始まりです。菓子と言えば和菓子だった当時、あんこの消費は多かった。手間のかかるあんこ作りを外注する和菓子屋から注文を受け、8年後に義理の祖父、内藤直作が和歌山に分店を開きました」

──130年間、守り続けてきたことは。

仁宏「良質な小豆へのこだわりです。空襲で工場が焼かれた時も、列車を乗り継いで北海道へ買いに行ったと聞きます」

──和菓子以外の商品も取りそろえています。

仁宏「13年前に小豆の煮汁を抽出する技術の特許を取得しました。抽出した液は健康飲料『小豆培元』『あずきの底力』として販売しています。小豆は栄養の宝庫で、便秘予防につながる食物繊維、塩分を追い出して高血圧を防ぐカリウム、抗酸化作用があるポリフェノールなどを含み、二日酔いも防いでくれます」

──今後は。

仁宏「不易流行の精神で、素材へのこだわりやお客さんを大事にする姿勢は変えず、時代に合った作り方や商品作りを続けます。その中で、あんこの本当のおいしさを伝えたい。特に若い人は、甘い、すっぱい、辛いなどの刺激の強い味覚に偏りがちですが、風味やコクといった奥行きのある味わいをもっと知ってほしいですね」

【一寸法師】
和歌山市東紺屋町77
午前9時〜午後6時 ㊐㊗休み
電話073・425・0813

(ニュース和歌山/2019年4月10日更新)