麦芽を使わず、麹(こうじ)でクラフトビールを造り出した醸造家がいます。和歌山市舟大工町のオリゼーブルーイング、木下伸之さん(41)です。「日本古来の醸造技術とビール製造の技術を融合させ、今までなかったお酒を実現しました」。発酵の世界に魅せられ、その可能性を追い求める木下さんに思いを聞きました。

麦甘酒がベース

──麹が原料のクラフトビールとは?

 「まず、一般的なビールは大麦を発芽させた麦芽にホップを加え、酵母で発酵させますが、私が考案したオリゼーペールエールは麦芽を使わずに、自家製の麦麹を主原料にしています」

──店舗の奥で醸造しているんですね。

 「まず麦麹と蒸し麦、お湯を混ぜ合わせ、麦の甘酒を造ります。それをろ過したものに苦味の元となるホップを入れ、タンクで冷やし、酵母を加えます。そこから1週間〜10日発酵させた後、2〜3週間熟成し完成させます」

──麹の魅力は?

 「麹が持つ酵素がアミノ酸を生み、コクやうま味の素になります。また私自身、醸造の中で一番楽しく、やりがいを感じるのが麹造りです。蒸し麦から手間ひまかけ、育てていく工程は毎回発見があり、飽きないです」

──醸造法がとても珍しいですね。

 「他社で麹が入ったビールや発泡酒はありますが、麦麹で造ったものは世界で初めてです。麹は日本酒や甘酒に欠かせないもの。日本酒とビールの製造工程を掛け合わせました。なお、税法上では発泡酒です」

──後味に雑味がなく、フルーティーです。

 「それが麹の力です。日本酒のふくよかな味わいと、ビールが持つのど越しや飲みやすさで、どんな料理にも合います。10月に長野県松本市で開かれた歴史ある国際的なビール大会に出品し、銅賞を頂きました。世界から集まったビールのプロに認められ、自信がつきました」

 

発酵に魅せられ

──出身は?

 「和歌山市です。大学卒業後、県内のしょう油メーカーで2年間勤めました。大好きだったベースで挑戦したいと退職し、東京で音楽活動をしました。28歳で区切りをつけ、みそや甘酒を製造する熊本の会社に入社。その後、麹造りの修業をするため、福岡の清酒メーカーで酒造りに携わりました。このときに得た米麹、麦麹、甘酒、日本酒などの知識や経験が今に生きています」

──なぜ起業を?

 「和歌山県はしょう油やかつおぶしなどの発酵文化が生まれたと言われる歴史ある場所です。その地で、自分しかできない新しい醸造にチャレンジしたいと2014年に帰郷しました。始めに手がけたのは、アスリート向けの米麹スポーツ飲料と酢酸菌、乳酸菌、酵母が入ったコンブチャで、どちらも発酵に着目した商品です」

──今後は?

 「日本全国には良い麹を造る醸造所がたくさんありますが、厳しい経営状態にあるメーカーが多いです。このペールエールの製造方法が醸造業界の新しい活路の一つになれれば。麹の魅力や可能性を世界中に広め、発展させたいです」

写真=オリゼーペールエール(1本550円)

 

【オリゼーブルーイング】

和歌山市舟大工町3
きのしたビル1階
11時〜18時 ㊐㊗定休
☎073・488・6280
 ※カウンターバー併設

(ニュース和歌山/2019年12月11日更新)